記事(一部抜粋):2017年1月号掲載

政 治

やらなければよかった日ロ首脳会談

「共同経済活動」は絵に描いた餅、北方領土は遥か彼方へ

(前略)
 ロシアのプーチン大統領と安倍首相の日ロ首脳会談が、日本国民の期待に沿えない形での結末を迎えたのは、ご存知の通り。全国紙には、成果を評価する一部の識者の声も掲載されたが、交渉の内実を知る専門家に言わせれば、今回の首脳会談は「プーチンに馬乗りにマウントされて、打ちのめされたような印象だった」という。
「成果どころか、やらないほうがよかったとの声さえ上がっています」というのは、外務省関係者。
「衝撃的だったのは、北方4島の主権についてプーチンが髪の毛一筋ほども譲る気配を見せなかったこと。4島の帰属にまで言及した1993年の東京宣言まで踏み込むとは思っていませんが、まさか1956年の日ソ共同宣言にある歯舞、色丹の引き渡しについてさえ、『主権を返すとは書いていない』と手のひら返しするとは。あそこまで頑なだとは安倍さんも予想していなかったはず。無力感に打ちのめされたのではないか」
 とはいえ、満天下に日本外交の敗北を認めるわけにはいかない。従って、共同記者会見の場では「いま4島において共同経済活動を行うための特別な制度について、交渉を開始することで合意した」とか、「平和条約問題を解決する真摯な決意を山口県長門の地で示すことができた」と、さも一定の成果があったように強弁せざるを得なかったのだ。
 むろん、応援団の中には実際の成果を評価する向きがないわけではない。
「例えば、対ロ交渉の根回しをかって出ていた鈴木宗男元代議士や森喜朗元総理などは、20年も凍結して固まっていた日ロ交渉がどんな形にしろ動き出したことを評価するという立場です。また、ロシアが北方領土を返還する際に、米軍基地がつくられるのではないかという点を気に病んでいることがはっきりした。これからその対策を考えることができるようになったことも一歩前進というわけです」(前出の外務省関係者)
 しかし、一方で安倍総理が「すぐ解決できるという素朴な考え方は放棄しなければならない」と、会見でつけ加えた際、表情が曇って見えたことも事実。今回の会談は、当初、2島返還が実現するのではないかと期待が高まった末、途中から一転、雲行きが怪しくなって奈落の底に転落した。なぜ、日本は最も大事な交渉のゴール地点をかくも読み間違えたのか。
「9月の時点で、安倍総理がかなり自信を持っていたのは間違いない。その熱が伝播するように、菅官房長官も今までにないほど前傾姿勢になっていったのです」
 こう証言するのは官邸詰めの記者である。
「菅さんは、健康寿命の短いロシア人への医療とか、高齢者の福祉、インフラ整備の問題に日本が協力すると言ったら、向こうがすごい反応で食いついてきたと興奮気味でした。今まで一度もやったことのないロシアへのアプローチだと胸を張っていたのです」
 要するに、安倍官邸はロシア側の反応の良さゆえに読み違えてしまったわけだ。
「今から考えると、ロシアが狙っていた果実は2つ。対ロ制裁を続けるG7の包囲網を破ることと、経済協力でしょう」と振り返るのは、ベテランの外信部記者だ。
「世界戦略的な視点から見ると、ロシアにとって一番重要なことはG7の包囲網を破ることでした。そのために、プーチンはなんとしても東京を訪問したかった。実は、彼は14年のウクライナ危機以降、主要7カ国の首都を一度も訪問できていない。期待を持った日本に自分を招かせ、うまく東京訪問ができれば、G7各国に、ロシア包囲網が確実に緩んでいることを印象づけられると踏んだ。日本からすると、本来、プーチンクラスの国家元首を首都に呼ぶ場合、外交的には天皇陛下の接遇がある国賓か公賓になる。しかしG7の手前、プーチンを国賓とするわけにはいかず、それゆえ、山口県に押し込める意図で、総理の地元での首脳会談をセットしたわけです。ところがロシアが一枚上手で、なにも国賓や公賓でなくても構わない、格下の実務訪問賓客の扱いでいいので、東京で首脳会談をやりたいとねじ込み、日本はのまされた」
 まだ首脳会談の日程が決まっていない時期に、日本担当のモルグロフ外務次官は「プーチン大統領は確実に東京に行く」と断言していたという。
(後略)

 

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