記事(一部抜粋):2016年12月号掲載

社会・文化

中国が「宇宙強国」になる日

宇宙ステーションを保有する唯一の国に!?

(前略)
「偉大な中華民族の復興を実現するため、宇宙の夢を追求せねばならない」
 習近平国家主席のこの宣言通り、今年の3月、全人代で今後の宇宙開発計画が発表された。北京特派員が解説する。
「習主席は、2030年までに米ロと並ぶ〝宇宙強国〟になるという目標を掲げています。そこで発表されたのが、2021年前後の火星探査機打ち上げを目玉とする今後の計画です。21年の中国共産党創立100周年を盛り立てるためにも火星探査を実現したいという目論見なのです」
 この計画にはほかにも、今年中に新型ロケット、有人宇宙船などの打ち上げ、来年には宇宙貨物船、月無人探査機の打ち上げなど、多数のプロジェクトが盛り込まれており、すでにそのうちのいくつかは実現している。
「11月3日には、新世代ロケット『長征5号』の打ち上げに成功しています。長征5号は米国の『デルタ4』に匹敵する性能で、低軌道打ち上げ能力は25トンと世界最高水準。日本は20年にH3ロケットを打ち上げる予定ですが、その低軌道打上げ能力は6・5トン程度。エンジンは日本のほうが性能は優れているものの、総合的に見れば中国のロケット技術が日本を上回ったという専門家もいます」(先の特派員)
 さらに、成功したのはロケットの打ち上げにとどまらない。
「10月17日には現役の空軍パイロットから選抜した宇宙飛行士2名が乗る有人宇宙船『神舟11号』が打ち上げられました。9月に打ち上げられた宇宙実験室『天宮2号』のドッキング(宇宙船の宇宙空間での結合)にも成功しています。22年頃には、中国は本格的な宇宙ステーション『天宮』を完成させる予定。天宮2号はその布石なのです」(同)
 この天宮2号を除けば、現在、運用されている宇宙ステーションは、日米欧などの協力で実施している国際宇宙ステーション(ISS)のみだ。
「ISSの運用は24年まで。『天宮』が計画通りに完成すれば、24年以降は中国だけが宇宙ステーションを保有する事態になりかねません」(同)
 中国が独自の宇宙開発に躍起になるのは、すなわち軍事技術開発とコインの表裏の関係にあるからだ。さる軍事評論家が解説する。
「たとえば、中国は自国のGPS『北斗』の整備を進めています。GPSは『WU14』と呼ばれる中国の最新兵器に欠かせない宇宙技術です。WU14は極超音速ミサイルで、米国のミサイル防衛でも撃墜が不可能。極超音速ミサイルは音速の10倍の速さで、世界中の地上または海上にある標的を1~2時間以内に攻撃できる。すでに中国は核弾頭が搭載可能な極超音速ミサイルの発射実験を重ねており、近いうちに実用化すると見られている。そうなれば、世界で唯一、極超音速ミサイルを実戦配備する国となります」
 中国が進める宇宙開発技術の軍事利用に、各国が大きく警戒心を示す〝事件〟が起きたのは、今から10年前のことだ。
(後略)

 

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