記事(一部抜粋):2016年12月号掲載

政 治

やはり年末? 解散風の向かう先

「答えは風の中にある」

(前略)
 9月から吹き出したこの風は二階俊博幹事長の口添えもあって、一旦、民進党の選対が慌てるほどの強風となったものの、11月にはパタッと弱まり、目下、微風状態。しかし年の瀬が迫るにつれて、再び強く吹き始める可能性がある。2014年12月の総選挙から2年が経過し、年明けから衆議院は任期を折り返した形となるからだ。
 政治部デスクが解説する。
「解散風は自民党側が吹かせ、野党が乗じましたが、官邸側が遮った格好です。衆議院は自公だけですでに68%を占めているし、選挙をやってこれ以上、勝つ見込みがあるわけではないので、任期一杯まで引っ張りたいというのが安倍総理の基本的スタンスでしょう。しかしその一方、2018年前半までに解散しないと困る事情がいくつかあるため、総選挙の時期に関しては堂々巡りの迷路に入りこみ、その出口を見つけられないのが現状です」
 第一の事情が安倍晋三首相の要望によって、自民党総裁の任期が延びたことだ。大した党内議論も経ず、2期6年だった総裁任期の延長が高村正彦副総裁に一任されたが、それはつまり、18年9月に安倍首相の自民党総裁としての任期が満了すると同時に総理の椅子を明け渡さねばならない事態を避けるための布石である。政治部デスクが続ける。
「任期は延長できましたが、18年9月の総裁選が無風というわけにはいかない。今は任期延長に誰一人、異議を唱えられないほどの一強皆弱の状態ですが、2年後には間違いなく石破茂さんと岸田文雄外務大臣が出馬し、多選批判を巻き起こそうと目論むでしょう。誰が勝ち馬になるかは2年後の景気次第という面もあり、安倍総理としては一番有利な時期を選んで選挙をやり、そこで勝利した実績をもって多選批判を押しつぶす必要があるわけです」
 逆に言えば、東京五輪まで総理大臣の椅子に座っていたい安倍首相にとって、18年9月まで一度も総選挙をせずに現状を維持をするのはリスクが多すぎるのだ。
「それだけではありません。18年つまり平成30年の年末は天皇陛下の生前退位がおこなわれる可能性が高いでので、やはり18年末という任期一杯まで引っ張るのは難しい。これが解散時期をめぐる迷路の出発点です。となれば、直近の想定はいつかと考えると、やはり今年の年末年始なのです。振り返れば、民主党の野田内閣から政権を奪ったのが12年12月、そして14年12月に消費税増税の延期を問うという大義名分で解散しました。要するに安倍さんは師走の選挙に2連勝中。今年の場合は、12月にロシアのプーチン大統領が来日し、硬直している北方領土問題の現実的な前進が見込めるので、国民にアピールできる材料もあるわけです」
 だが、外務省周辺から聞こえてくるのは、物事はそう簡単ではないという異論だ。
「ロシアが4島を一括返還する可能性はなく、日本に都合よく進んだとしても、歯舞と色丹の2島先行返還までがロシア側の最大の譲歩でしょう。国後と択捉は継続協議に持ち込むのが精一杯で、実質的に2島が返還されるだけで納得して、平和条約に結び付けなければならないわけです。これで納得するのなら、ずっと前に北方領土問題は解決していた。その点を追及されることを考えれば、切り札としては弱い」
 そもそも外交成果は、総選挙の争点として不適格というのが永田町の常識だ。加えて、日ロの交渉はトランプ・ショックという想定外の障害物に阻まれつつあるというのは、霞が関の担当記者。
「トランプ大統領によって、プーチンは米ロ関係を改善するキッカケをつかみ、孤立無援からの突破口を見つけました。相対的に日ロ首脳会談の価値はかなり低くなり、日本に飴玉をやらなくてもいいという判断に傾く可能性が出てきた。大統領選の直後にウリュカエフ経済発展相が汚職で逮捕された一件も、クレムリンからの負のメッセージだと読み解くことができます」
 ウリュカエフ経済発展相は、対ロシア交渉を担う世耕弘成経産大臣の極めて重要なカウンターパートで、11月3日に会談がおこなわれたばかり。彼はクレムリンの権力闘争に敗れたのに違いなく、ウリュカエフの手がけていた案件を次の担当者がスムーズに引き継ぐとは考えにくいのだという。
 つまり、安倍総理はこの師走、はかばかしい成果を国民に提示することは困難になってきた。では、解散に適した次善のタイミングはいつなのか。
(後略)

 

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