(前略)
そうした苦境に喘ぐ地銀がいま、当局に強く要望しているのが不動産仲介業務の解禁だ。地銀の幹部は要望実現のため金融庁に足繁く通っているという。
「不動産の仲介業務が認可されれば、融資との高い相乗効果が発揮でき、地元融資も伸びる。地方創生にも一役買える」(地銀幹部)というわけだ。
しかし現在、金融機関で不動産仲介業務が認められているのは信託銀行のみで、許認可を得るハードルは高い。それというのも「信託銀行以外の金融機関に不動産仲介業務を認めれば、専業の不動産業者がバタバタと倒産しかねない。主務官庁の国土交通省がガンとして認めない」(金融庁関係者)ためだ。
地銀が不動産仲介業務解禁で色めき立つのは今回が初めてではない。2000年代初頭にもひと悶着あった。きっかけは、りそな銀行の取り扱いだった。
りそなホールディングスは2003年に2兆円の公的資金の注入を受けて準国有化された。その後、苦難の末、公的資金の返済に目途をつけ、09年に持株会社傘下のりそな銀行とりそな信託銀行を統合させた。
その際に焦点となったのが信託業務、とりわけ不動産仲介業務の取り扱いだった。
りそな銀行の前身のひとつである旧大和銀行は、戦前から都市銀行で唯一、信託業務を併営しており、その業務はりそな信託銀行に継承されていた。このためりそな銀行とりそな信託銀行の統合に際して、当初は、統合後の新・りそな銀行の全ての店舗で信託業務が展開できる可能性が指摘されていた。
金融行政上も、りそな銀行に信託業務を併営させ収益力を高めさせることは「公的資金の返済を促すうえで得策」との意見も聞かれた。
しかし、ここで待ったがかかった。信託業務のうち不動産仲介業務を所管する国土交通省から「広範な店舗を有する都市銀行が全店で不動産仲介業務をおこなうことはまかりならん」と釘をさされたのだ。
りそな銀行が不動産仲介業務を全面展開すれば、他の都銀も黙ってはいない。必ずうちもやらせろとなってくることが予想された。そうなれば国交省が監督する不動産専門会社や宅建業者はひとたまりもなく倒産の憂き目に晒されかねない。
紆余曲折の末に出された結論は、統合前のりそな信託銀行の店舗のみに限って不動産仲介業務を認めるというものだった。つまり旧大和銀行の店にのみ既得権として認めるという内容だった。
今回の地銀の不動産仲介業務の解禁でも状況は変わらない。むしろ、全国津々浦々に根をはった地銀が不動産仲介業務に進出するマグニチュードのほうが大きいともいえる。実現は容易なことではない。
しかし地銀にも、収益が低下するなか座して死を待つわけにはいかないという差し迫った事情がある。
直近の16年4~6月期決算では、上場地銀83行の4分の3に当たる62行が前年同期比で減益(純利益)を余儀なくされ、貸出による収益は80行で減少した。日銀のマイナス金利政策の負の影響が大きく顕在化しているのだ。
(後略)