記事(一部抜粋):2016年10月号掲載

政 治

憲法9条(専守防衛)は非現実的ではない

【コバセツの視点】小林節

 最近、多くの友人・知人が、「北朝鮮のミサイル・核実験と中国の海洋進出が安倍政権の追い風になっている」と言う。私も同感である。
 確かに、隣国北朝鮮が国際法に違反してミサイル・核実験を行い続ける以上、わが国も防衛力を強化しなければならないと考えるのは自然である。同じく、国際法を無視して海洋進出を試み、歴史と国際法に照らしてわが国の領土であることが明白な尖閣諸島の領有権を主張し続ける中国の存在が、防衛力の強化を主張する安倍政権の説得力を増していることは事実であろう。
 しかし、そこにはひとつ大きな誤解がある。まず、北朝鮮や中国の脅威に対して「専守防衛」の強化を図ることには正当性がある。つまり、最近まで、わが国は、憲法9条の制約の下で、海外に攻めては行けないが、万一、他国がわが国に攻め込んで来た場合には自衛隊を用いて防衛する体制を整えることで、他国のわが国に対する侵攻の意図を未然に挫く……という政策を採用し続けて来た。
 その結果、わが国は、国連第2のスポンサーという経済大国でありながらも、PKOに参加した場合も含めて、海外で軍事活動は行わない国であるという定評を得ていた。だからこそ、わが国のPKOもNGOも海外の紛争隣接地域で比較的安全に活動できた。
 しかし、今、安倍政権が強力に推進している新しい安全保障政策は、上述の「専守防衛」の強化ではなく、戦後初めて「海外派兵」を実行する決断である。
 まず、価値観を共有する(?)国とともに世界の安全保障に積極的に貢献していく……ということは、①米国と戦っている勢力に対して米国とともに反撃して相手を滅ぼして平和を回復する。②違法なミサイル・核実験を行う国や違法に領土(領海・領空)を拡張しようとする国を軍事的に牽制する米国と共同行動を取る。③PKO参加地で軍事的紛争が再発した場合には、他国の軍隊と同様に武力を行使する。……こういう政策である。
 これは、要するに、第二次世界大戦前の世界五大軍事大国のひとつであった当時のわが国(大日本帝国)の復活である。
 しかし、世界史を巨視的に眺めた場合、軍事力による制裁が真の平和をもたらさないことは明らかである。結局は、各国の国力の再興時に力による恨みの連鎖が重ねられて行くだけである。
 ではどうすれば良いのか?
 敗戦国日本の無力化のために米国から「与えられた」憲法9条ではあるが、それを奇貨として、世界史上に類例のない「不戦の経済大国」になった日本は、世界平和の実現に向けた長くても着実な道程をリードできる特異な立場にあるはずである。
 わが国が、経済力と技術力で世界のトップにいることは間違いない。だから、その力でまず「専守防衛」の能力を高めるべきである。それにより、他国はどこも自国が致命傷を負わずに日本を侵攻できないことを、世界に周知することができる。その上で、わが国は海外では軍事力の不行使に徹し、対立する諸国間の仲裁と人道復興支援に邁進することである。
 そうすれば、拒否権が対立する半ば不毛な国連において、わが国は、唯一、生産的な提案ができる大国になれるはずである。それが世界平和への貢献の着実な第一歩であろう。

 

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