記事(一部抜粋):2016年7月号掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

東京都の知事職は要らない?

 実は東京都はクルマで言えば自動運転を続けているのではないか、と思うようになってきた。石原慎太郎氏は強いリーダーシップを持つイメージを振りまいていたが実際に登庁するのは週2日程度だったとされているし、13年間も知事をやっていたがディーゼル規制以外あまり目立った成果を上げていない。公約だった横田基地の民間共用は空振りに終っているし、派手にカネを振りまいた2016年東京オリンピック招致も果たせなかった。むしろ新銀行東京などで1000億円近いロスを出したことが記憶に残っている。4期目の知事職を1年で放り出したのも無責任で、飛び出した直後に自民党ではなく「日本維新の会」から国政に出て衆議院に復帰している。生涯の政敵であったはずの田中角栄を「天才」と呼んでヒット作を出版するなど大衆を翻弄するのが趣味ではないか、と思われるくらいの変わり身の早さは80代になっても健在である。
 石原氏が後継指名した猪瀬直樹氏は400万票以上の史上最高得票で当選し、青島幸男、石原慎太郎と3代続けて知名度のある作家が都知事になる、という世界的にも前代未聞の珍記録を残した。その猪瀬氏も2020年オリンピックの招致以外には目立った成果は残せず、任期は石原氏が紹介したとされる徳州会からの5000万円の献金問題で1年で終ってしまった。退任後はこの資金問題が仇となり、罰金刑で5年間の公民権停止という不名誉な記録を残した。
 問題は東京都民だ。石原氏のような人物をあっさり4選させているし、それを投げ出して猪瀬氏を後継指名したらあっさりそれを受け入れている。東京都民には怒りというものがないのだろうか? 意地悪婆さんや猪瀬氏を圧勝させる東京都民にはアメリカ大統領選で共和党代表候補となった(バラエティ番組の司会者でもあった)トランプ氏を批判する資格はない、と思われる。
 そのあとに自民党が担ぎ出したのが舛添要一氏である。舛添氏は自民党に未来はない、と言って飛び出した経緯がある。その本人を担ぎ出さなくてはならないほど候補者に事欠いていたとはいえ、自民党には舛添氏を担ぎ出した責任があるはずだ。
 彼は東京を世界一の都市に、というスローガンを掲げたが、実績としては「せこい」という日本語を世界に広めただけに終ってしまった。これで16年にわたって自民党の推薦した知事が仕事らしい仕事もせずに東京の歯車は回っている。大都市としては安全・安心で確かに世界一だし、失業率も低く、路頭にホームレスが溢れている、という状況にはない。知事と関係なく日本の首都マシーンは健全に回っているのではないか? 都民が知名度だけで行政能力のない知事を都庁に送り込むなら、誰が来ても回るようにする、という自動運転装置が稼働しているのだろうか? 実際、都庁は16万人の職員を抱える巨大組織だ。副知事を頂点に13兆円の予算を消化する官僚マシーンで、知名度だけで選ばれた素人に動かせるシロモノではない。知事は若干の色付けをする絵付け師程度、と思って間違いない。だからこそ、舛添氏は毎週末湯河原に通うことができたし、ネットで熱心に美術品などの買い物をすることができたのだ。13兆円の企業の社長ならそんな余裕があるわけがない。
(後略)

 

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