今年5月に起きた現金不正引き出し事件が金融界に波紋を広げている。
この事件、17都府県のセブン銀行やゆうちょ銀行のATMから計18億6000万円が引き出され、数名の「出し子」が警視庁に逮捕されたというもので、背後には国際的な犯罪組織があるとみられるものの、全容解明はこれから。100人を超えるとみられる出し子を操った主犯は海外にいる可能性が高く、出し子の逮捕も“トカゲの尻尾切り”に終わりかねないと危惧されている。
このATM事件にことさら神経を尖らせているのが、メガバンクなどの大手銀行だという。あるメガバンクの企画担当者が嘆く。
「2020年の東京オリンピックに向けて急増する訪日外人観光客を当て込んだ重要施策だったのに、見直しは避けられない」
訪日外国人向けに当て込んだ施策とは、ATMによる外貨引き出しのこと。同担当者によると、メガ3行とも20年までに外貨を引き出せるATMを1000台設置する計画だったが、機能・セキュリティーと限度額の両面から見直しが避けられなくなったというのだ。 急増する訪日外人客へのサービスはむろん充実させなければならないが、ATMの不正防御には万全を期す必要がある。まさにジレンマだ。
今回の事件では、南アフリカにあるスタンダード銀行のクレジットカードの情報1600件あまりが不正に抜き取られ、その情報を埋め込んだ磁気テープを張り付けた白地の生カードで、3時間たらずの間に18億円超もの現金が引き出された。
「セブン銀行やゆうちょ銀行はいわば“土管”のようなもので、実際の被害はスタンダード銀行に及ぶ。まさに国際的な新手の犯罪で、旧式の磁気テープにも対応可能なセブン銀行やゆうちょ銀行が狙われた。日本のATMネットワークの事情に詳しい人物が関与しているのは間違いない」(同)
とはいえ、引き出された現金を海外に持ち出すのは、地下銀行を使うなどの手はあるのだろうが容易なことではない。主犯は国内にいる可能性も囁かれている。
ATMによる外貨引き出しは、政府が15年に打ち出した成長戦略のひとつでもある。訪日外国人はビザの緩和もあり、現在は年間2000万人にも達する。そうしたなかで犯罪は高度化し、対応は後手に回りかねない。
このATM犯罪の大本となった南アフリカのスタンダード銀行から抜き取られたクレジットカードの情報は、同行のシステムにハッカー攻撃が仕掛けられ、盗み取られた可能性が高いと指摘されている。システムのセキュリティーが脆弱な銀行を狙い撃ちし、実際の現金の引き出しはオープンな形でATMが設けられている日本のコンビニで、しかも出し子を使っておこなう。巧妙な手口と言っていい。
実は、ここにきて日本企業や官庁へのサイバー攻撃が激しさを増している。
(後略)