記事(一部抜粋):2016年7月号掲載

政 治

麻生と菅の亀裂はもはや修復不能

安倍一強体制に漂い始めた暗雲

 英国に「astichin time saves nine」という古い諺がある。直訳すれば「時を得た裁縫の一針は九針を省く」で、我が国では「今日の一針 明日の十針」と意訳される。小さな綻びは一刻も早く繕うことが肝要だという教訓で、なるほど、移民問題や経済格差がこじれにこじれてEU離脱の大騒動に発展した彼の国の古き良き知恵といって差し支えないかもしれない。
 実は我が国のトップリーダーの人間関係にも8年前、小さな綻びが生じていた。その綻びは昨年、消費税の軽減税率の議論の中で一気に裂け目が大きくなり、ついに、この6月、安倍総理が消費税の延期を宣言した際、修復不可能なまでに広がってしまったのだ。
 安倍政権が自民党内の権力闘争にも巻き込まれず、これまで盤石だったのは「3A+S」のおかげだと言われる。つまり「安倍、麻生、甘利、菅」の4人組が一枚岩となって守りを固めてきたからだ。だが、ご存知の通り、甘利経産相の辞任によってその一角が崩れたカルテットは、参議院選挙という一大イベントを前に、「麻生太郎」財務相と「菅義偉」官房長官の仲が、決定的にこじれてしまったのだという。
 この裂け目の深刻な影響を語る前に、まずは、安倍内閣の将来を左右する参院選の情勢を俯瞰しておこう。政治部デスクが解説する。
「自民党の改選議席は50議席。6月下旬に実施された自民党や各メディアの世論調査を分析すると、自民は、沖縄や福島で現職閣僚の落選が避け難いものの、全体としては堅調プラスアルファ。選挙区と比例区を合算して57議席を越える可能性が高い。これは自民党単独でも参議院の過半数を獲得できる数字で、公明党を加えれば、勝敗ラインの61議席を大きく越えるのは間違いありません」
 しかし、選挙の結果が想定通りだったとしても、政権運営の先行きには暗雲が垂れ込めているという。政治部デスクが続ける。
「この問題は神奈川選挙区に象徴的に表れています。神奈川は定数が4人なのですが、目下、有力候補者6人の大乱戦が起きている。与党側は自民公認の三原じゅん子と自民推薦の中西健治に、公明の三浦信祐、対する野党側は民進2人に共産1名。この6人のうち、すぐに当確が打てるのは三原だけで、残り3議席を与党2人、野党3人の計5人が争う構図です」
 世論調査の結果を見れば、自公と共産、民進の1人の候補者は、ともに支持率が13%前後で拮抗中。誰が勝つかは予断を許さない。
「ことが単なる神奈川という選挙区の問題ですまないのが、自民党の応援体制に奇妙なねじれが生じているからです。具体的には、神奈川2区を地盤とし、実質的に神奈川県を支配する菅官房長官が応援しているのが公認の三原と公明党の三浦という“三・三コンビ”。一方、麻生財務相が応援しているのが、自民党推薦の中西。中西が自民党推薦しかもらえないのは、菅さんに嫌われているからです。というのも、彼は2009年に横浜市長選挙に自公の推薦をもらって出馬し、惜しくも落選。ところが、その翌年、参院選にみんなの党から立候補して当選してしまった。菅さんが大ボスである自民党の神奈川県連は、中西に後ろ足で砂を掛けられたと認識しているわけです。だから菅さんは、自分の創価学会とのパイプを強化する目的で公明党の三浦を応援している。一方、捨てる神あれば拾う神ありで、今は無所属になった中西に自民党復帰の足がかりを与えたのが麻生さん。中西と三浦のどちらかが落選するようなことがあると、麻生対菅の感情的な争いがいよいよ本格化すると見ています」(同)
 つまり選挙区を舞台に公然と、「財務相兼副総理VS官房長官」の鞘当てが演じられているわけだ。
(後略)

 

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