そのゴルフ場の名物の一つは「春の海」と名付けられたINの6番ホールだという。ティーグラウンドから見るとちょうどドライバーの飛距離の辺りで右側ラフから流れ出たクリーク(小川)が、左奥に向かってフェアウェイを斜めに横切っている。クリークは、そのままフェアウェイ左サイドに沿って奥へと流れ、大きな池を形づくる。グリーンはこの池のなかに半島として突き出しており、それゆえ第1打で上手にクリーク越えに成功したとしても、ピンフラッグは池のなかにポツンと浮かんでいるかのように映るのである。
上級者であればあるほど、八方手詰まりのプレッシャーを感じる見事なレイアウト。ここは福岡県朝倉市にある「福岡センチュリーゴルフクラブ」である。1990年5月、バブルの真っ盛りに開業し、いまも九州で最もゴージャスなゴルフ場の一つだが、このところ経営不振から生じたゴタゴタばかりか、迷宮入りしそうな殺人事件の背景としても、その名前が取り沙汰されているのだ。
(中略)
華やかな舞台裏の常として、バブル企業のご他聞に漏れず経営状態は切羽詰まっている。5年前の6月に一度破綻し、民事再生法を申請。負債総額は400億円を越えていた。また、昨年6月には、経営陣の新株発行に関しての不正疑惑が巻き起こり、福岡地裁により社長以下5人の役員が職務執行停止の処分を受けたうえ、大株主から刑事告訴された。
この際、告訴した株主側についたのが、元名古屋高検検事長というヤメ検の大物である石川達紘弁護士。彼の古巣への働きかけが功を奏したのか、この刑事告訴を受けた形で今年1月、登記簿虚偽記載の容疑で、福岡地検がクラブハウスや福岡市の経営会社を家宅捜索し、ダンボール40箱あまりを押収している。
つまり、尾羽打ち枯らした経営陣、職務執行停止中の元社長は、いつ福岡地検に逮捕されてもおかしくない状況といえる。しかも問題を複雑化しているのが、元社長が全く別次元の重要案件で、警察やメディアから注目を浴びていることだ。
元社長の名は上杉昌也氏(72)。部落開放同盟中央執行委員長だった故・上杉佐一郎氏の異母弟として有名だが、「美空ひばり」の庇護者、もしくは晩年の交際相手として思い出すベテランの芸能記者も少なくあるまい。その縁ゆえ、少なからず芸能界に影響力を持つ彼の周辺が慌しさを増したのは5月17日のことである。ある暴力団関係のニュースが飛び込んできたからだ。
福岡県警担当の記者が説明する。
「この日、指定暴力団工藤会の総本部長・石田正雄が強要未遂で逮捕されました。容疑は電話で相手に俺と会えと脅した程度の微罪です。とはいえ、あの工藤会の大幹部ですから、微罪であっても逮捕は珍しいことではありません。ただ今回あれっと思ったのは、石田総本部長が、例の“吸い殻の男”の上司というポジションだったことです」
(後略)