記事(一部抜粋):2016年5月号掲載

社会・文化

「六代目VS神戸」抗争の落とし所

特定抗争指定の後に終結宣言の可能性も

 エントロピー増大の法則をご存知だろうか。一般的には「熱が不可逆的に高い温度から低い温度へと変化する状態」と解釈されている。つまり、風呂の湯船の温度は、時間が経てば必ずぬるくなる。また時には、秩序のある状態が、不可逆的に無秩序の方向へと向かう有り様として語られる場合もある。例えば、きれいに片付いていた部屋が、いつしか散らかり始め、やがて足の踏み場もなくなるあるいは暴力団同士の抗争がエスカレートして、ついに血を見る日がやって来る──。
 実は昨年8月末に「六代目山口組」から分裂した「神戸山口組」と本家の争いも、この法則が当てはめられる。今のところ、拳銃を使用した射殺事件こそ起きてはいないものの、春になって暴行、傷害、トラックで相手事務所に突っ込む器物損壊などが頻発し、小競り合いは一向に収まる気配を見せていない。その結果として、この4月15日、兵庫県公安委員会が神戸山口組を「指定暴力団」にスピード指定する事態に至ったのだ。
 いまや傍目に双方の抗争は悪化の一途を辿っているように見える。しかし一方で、はるか彼方ではあるものの、薄ぼんやりとゴール地点が霞んで見えてきたという。
(中略)
「指定団体になることが間違いないと分かった春になってから、双方の抗争は新しい局面に入っています。例えば、3月の抗争を一覧表にすると、両組織がほぼ半々の割合で敵方に攻撃を仕掛けたり、反撃したりしています。実はこれまで、六代目側はマスコミに沈黙を続けてきたため、宣伝戦略で遅れをとり、挑発され放題という状況でした。使用者責任を問われて司組長が逮捕されることのないよう、反撃はかたく禁じられていたのです。ところが、ここにきて反攻が始まった。やはり暴力団ですから、指をくわえているばかりでは士気にもかかわるし、組織的に持たないという判断なのかもしれません」(前出のライター)
 一方、当初は飛び出した勢いもあってイケイケの強気だった神戸側は、当初に比べてブレーキをかけ始めている。それは指定暴力団への昇格の後、山口組であってもいまだ体験したことのない大きな危機が迫っているからだという。このまま、六代目側と派手に抗争を続けていると、1段上の「特定抗争指定暴力団」に指定されてしまうのである。
 兵庫県警の捜査員がいう。
「3月下旬、神戸山口組は、井上邦雄組長と兄弟分である浪川会(福岡県)の浪川政浩会長を招き、特定抗争指定暴力団に関する勉強会をおこないました。この規制を受けると、警戒区域内の組事務所への立ち入りもできなくなり、5人以上集まっただけで即逮捕。一体どういうことが起きるのか、この指定を受けた道仁会と九州誠道会の抗争を知る浪川会長に経験を教えてもらったようです」
 実はこの勉強会の後、神戸側の大幹部が方々に通達を出し、六代目山口組に対する抗争自粛を呼びかけたことが判明している。
 捜査員が続ける。
「神戸側には懲罰委員会まで設置され、反撃を厳しく取り締まり、処罰するそうです。驚いたことに、神戸側の大幹部は『たしかに盃を返したことはこちらに非がある』とか『むかし山健組が主流派だった時代に、山健、山建と身内に冷たく当たったことが、六代目体制下での冷遇を招いた』という趣旨の自己批判までした。つまり悪い部分は自ら認め、大人の話し合いができる組織だと対外的にアピールしたのです」
(後略)

 

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