環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案の審議は、熊本地震の被災地対応で断念した感を残し、秋の臨時国会へと持ち越された。
「TPP法案の成立は、安倍政権が今国会での成立を目指した最優先課題だった。本来なら大型連休前に衆院通過、明けから参院へ進むつもりだった。そこで難航しても、30日ルールで衆院の優越を使って今国会で成立させる万全の体制をとっていた」(与党関係者)
その予定を狂わせるきっかけは、地震直前に民主党の玉木唯一代議士らによって明かされた、西川公也氏が書いた“暴露本”の存在だ。
西川氏は比例北関東ブロック選出、当選6回の中堅議員。現在は衆院TPP特別委員会の委員長であり、TPP合意に向けて対策委員長、党農水調査会長などに就いて交渉を先導した。自著では2012年の自身の議員再選から今日に至るまでのTPPをめぐる政治的背景から交渉内容までが赤裸々に綴っている。
国会審議でも記載された文字のほとんどを黒く塗りつぶして非公開とするほどの“国家機密”とされていたTPP交渉の内実を、その中心的役割を担った当事者が書いているのだから、交渉過程の情報がほとんどなく追及の手をあぐねていた野党にとって、またとないチャンスだった。
ところが『TPPの真実~壮大な協定をまとめあげた男たち~』と題された本は、国会でそのゲラ(手直しできる段階で印刷した校正刷り)の存在が明かされた翌日には、インターネットサイトからの予約注文が削除され、存在が消される。特別委で著作の真意追及された西川氏は「(委員長は)お答えする立場にない」とノーコメントを貫いたが、反発した野党が委員会室を退席。西川氏自身が速記を止める指示を忘れたため、記録用マイクのスイッチを入れたまま、自分が書いたと告白してしまった。
「あれは今の新しいやつは消えてるんですよ。自分できれいに整理をしたやつじゃなくて、一番古いのが出てるんですよ。書き殴ったやつが。だけど認めないんでしょ。深掘りしてくるから」
だが、その展開に著者の西川氏より頭を抱えた関係者がいた。
「西川本の副題は、『壮大な協定をまとめあげた男たち』。西川氏を中心に交渉に携わった官僚の顔写真や経歴、直筆メモまで掲載されている。そして、それら主役を彩るのが、西川氏を取材対象とした記者たち。西川本は、至る所に記者の動静を散りばめて交渉に彼らも一役買っていたことを記している」(国会関係者)
(後略)