記事(一部抜粋):2016年4月号掲載

連 載

【新ニッポン論】田中康夫

「宅幼老所・保育ママ」

「『潜在的な待機児童』が、去年4月の時点で全国で4万9000人余りに上ることが厚生労働省の調べで分かりました」と3月20日、籾井勝人氏率いる日本放送協会は報じました。厚労省は「去年4月の時点で全国に合わせて2万3167人いると発表してい」たにも拘らず。
「宅幼老所」と題して当連載第2回目に、「3年間で370億円の予算を投じて認可保育所への株式会社参入を促し、待機児童ゼロ宣言」と紹介した横浜市とて、昨年8月3日付け「朝日新聞」に拠れば、2526人もの「隠れ待機児童」が存在しているのです。
「待機児童」算出方法が、各自治体で異なるからです。待機児童数の多さが指弾される世田谷区は、保育施設に入れずに育児休暇を延長した母親の子供、自宅で求職中の母親の子供等も待機児童数に含めてきたのに対し、その何れをも横浜市は除外していました。
 それは、非合法組織であるかの如き印象を与える「無認可」保育所なる呼称を放置し続ける厚労省が、「地域主権」の美名の下に「待機児童」の定義を各自治体任せにしてきた“不作為”が原因。この段に及んでも「隠れ待機児童」ならぬ「潜在的な待機児童」との表現に拘泥するのは、姑息な争点隠しに他なりません。
 とまれ、「消えた年金」に続く「隠れ待機児童」問題が顕在化。保健所もとい保育所のあり方を巡って侃侃諤諤、喧喧囂囂な議論が沸騰中です。なのに、「認可保育所を作っていくことが一番大事なので努力している」との国会に於ける塩崎恭久大臣の答弁は、哀しい哉、ハコモノ行政発想。
 超少子・超高齢社会ニッポンは、「造るから治す、そして創るへ」の理念に基づく「宅幼老所」と「保育ママ」の充実を図るべき。それこそが「待機児童」問題を抜本的に解決する新しい福祉のあり方です。
 知事在任6年間に350ヶ所余り、信州・長野県の独自事業として誕生した宅幼老所は、商店街の仕舞た屋、住宅街の空き家を改修し、デイサービスと保育所を合体した空間。「老保一元化」の発想で、高齢者と就学前の乳幼児が一つ屋根の下で一緒にお昼御飯を食べ、一緒にお昼寝。お互いの元気の素を分かち合えます。
 国庫補助対象となるデイサービスや保育所の開設は、事業費4000万円以上で新築する場合のみ。一施設当たりの補助額は最大3000万円。自治体負担は、その補助額の3割、即ち900万円。日本では福祉も、予算の肥大化を招くハコモノ公共事業なのです。
 僕が衆議院議員時代に厚労省と折衝し、高齢者・乳幼児に加えて障碍者(児)も対象に、利用定員10~20人程度の小規模・多機能型の「宅幼老所」が、国の補助事業として認められました。借家改修費用は750万円程度。緑色の非常口ランプや厨房の防炎防火設備等を整備して、サービス開始まで1ヶ月もあれば十分です。
 制度としては以前から日本にも存在する「保育ママ」。が、それは欧州大陸屈指の合計特殊出生率2.01を回復したフランスの「保育ママ」とは似て非なる存在です。家庭で親権者が育児を、或いはベビーシッターを利用する場合にも補助金を支給する同国は、保育経験を有する人物が自宅に数人の子供を預かる形態も同様に補助対象としています。
 対GDP比で日本の3倍もの予算を子育て支援に振り向けるフランスは、族団体という組織でなく、真っ当な個人を信じる施策を展開しているのです。翻って、68万人もの「潜在保育師」が存在する日本。信州版「宅幼老所」とフランス流「保育ママ」こそ、再びフルタイムで勤務せずとも、豊富な経験を活かせる社会貢献なのです。

 

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