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納骨堂とは元来、身元が分からないなどの諸事情から墓に入れられない遺骨を一時的に保管する場所のこと。しかし近年は、骨壷に遺骨を入れて安置しておくスタイルが、お墓を建てるのに比べて安く、またお墓の掃除などの手間も必要ないことから人気がある。ロッカー型や仏壇型、最近は自動式納骨堂も登場している。
今回紹介するのは高野山真言宗別格本山「興正寺」(愛知県名古屋市)の納骨堂。真言宗のお寺は全国に約3600あるが、別格本山はそのなかの約60カ所。興正寺は東海地方屈指の大刹だ。
その興正寺に納骨堂が建立されたのは2005年のこと。地上1階が本殿、地下1、2階に礼拝ホールと納骨堂があり、6600体を納められるスペースがある。総工費は約10億円。
この納骨堂に入る費用は個人が75万円。夫婦だと105万円。今どき、都内中心部の納骨堂でも個人で50万円を切るところがあることを考えれば割高に感じられるが、真言宗本山別格という格式、そしてテレビCMなどの効果もあって、たちまち半分ほどが埋まったという。すべて埋まれば約50億円。工事費やCM代を差し引いても数十億円儲かる計算だ。
この興正寺、梅村正昭元住職が、高野山本山から罷免されたにもかかわらず、なんと、いまも留まって占有を続けている。
梅村元住職は、愛知宗務支所長、宗会議員(定員37名。宗会は高野山の議会に当たるもので、同議員が予算など重要な案件を審議する)を各2期務めたほどの有力僧侶だが、高野山真言宗から離脱を主張して訴訟沙汰になっており、
先の本堂の横には、プレパブ造りながら弘法大師像の祀られた別の本堂が建てられ、本山側と興正寺側の「二つの本堂」が出現するという異常事態となっている。
納骨堂の遺族からは、「由緒正しい真言宗別格本山の納骨堂ということで購入したのに、どうなっているんだ!」と批判の声も出ている。
それはそうだろう。何しろ、梅村元住職が罷免された理由が俗世間以上にどろどろしているのだ。
「興正寺は境内だけで約1万坪。社有地全体で約4万5000坪の広さがあります。そのうちの3万坪以上は賃貸していて、最大の賃借人は中京大学の約2万坪でした。その約2万坪を本山に断りもせずにこっそり売却し(12年7月。13年11月に発覚)、100億円以上の収入を得ていたのです」(高野山僧侶)
ただし、誤解のないように断っておくが、その100億円すべてを梅村元住職が自分の懐に入れたわけではない。
「梅村元住職は、『納骨堂や多目的ホールの建設や各施設の改修工事をする費用にあてるので“売却”には当たらない。だから本山に報告しなかった』と言っています。しかし使用目的はどうあれ、大師様が教えを広められた結果の寺社財産ですから、売却額の3%は“礼録”といって本山に納めるのが決まり。しかも無断売却が発覚後、梅村元住職は一度は本山に出向いて泣く泣く詫び、3%の礼録を納めると約束しながら、罷免が免れないと見るや、興正寺を実力で占有してしまったのです」(同)
この梅村元住職、以前から数々の不良行為を指摘されていたという。
たとえば問題の納骨堂建立に関していえば、水増しされた分の建設費3億円の約半分が興正寺側にキックバックされていたとの告発がなされたことから、名古屋地検特捜部が捜査したこともあった。不起訴(09年10月)にはなったが、その際の最大のターゲットが梅村元住職だった。
「4人の僧侶を次々と不当解雇した件も問題になりました(裁判では興正寺側がすべて敗訴)。自分の意のままにならない者は難癖をつけて排除したのです。また、葬儀代の1割を元住職にキックバックしていたと、元側近の葬儀会社社長が証言したこともあります。さらに、僧籍のない見習い一人を通夜に派遣したことが新聞ネタになったことも」(同)
ところで、梅村元住職が興正寺の所有地約2万坪を売却しながら“礼録”を納めなかったのは、当時の本山の責任者、庄野光昭・前宗務総長にも責任があるともいわれている。
宗務総長といえば、管長に次ぐ高野山のナンバー2。
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