「まさに最悪のタイミングでの配信になってしまった」
安倍政権では政官の民間への介入が目立つが、政府系ファンドも急速に存在感を増している。官民ファンドとして国が9割出資する産業革新機構はシャープの液晶事業と液晶大手のジャパンディスプレイとの経営統合を摸索、一方で不正会計によって解体的な出直しを迫られている東芝とシャープの白物家電事業の統合にも触手を伸ばそうとしている。欠陥エアバックの大規模リコールに揺れるタカタでも自動車メーカー各社による出資案とともに、一部では同機構主導の支援策が囁かれている。
政府保証枠1兆円の地域経済活性化支援機構も支援ペースが加速している。同機構はJALを手がけた企業再生支援機構が2013年3月に改組されたもので、主に地方の有力企業を対象にしている。自力再建が困難な企業に対して同機構が債権を買い取ったり、金融機関に債権放棄を促して新スポンサーの下で再建を図る。これまでの実績は大井川鉄道や熊本バス、中山製鋼所、沖縄三越などがあり、「今年に入ってからも全国各地で支援候補が取り沙汰されている」(地銀幹部)という。
ただ、構造的な経営不振に陥っているシャープや東芝への官主導の支援は個別企業の救済色が濃く、産業革新機構の本来の設立主旨に反する。とくに価格競争が激しい白物家電では日本メーカーの優位性は失われ、事業統合によるシナジー効果は薄い。弱者連合への税金投入にどのような大義があるのか。国の救済基準が曖昧なままでの競争力を失った事業の温存は産業の新陳代謝を阻むもので、ましてやビジネスモデルが崩れ、弱体化した企業の駆け込み寺など論外。ここ20年余り、繰り返されてきた政官民による弥縫策と先送りそのものだ。政官の使命は業界再編ではなく、規制緩和や税制など民間が戦うための環境整備に尽きる。そもそも企業再生では素人の官僚とお上頼みの企業に成長戦略は描けない。地域経済活性化支援機構も地方への影響や雇用確保という大義名分があるにせよ、地方経済のドラスティックな構造変革を妨げるデメリットは無視できない。
(後略)