記事(一部抜粋):2016年2月号掲載

政 治

株価大暴落を招いた習VS李の暗闘

実務権限を奪われたナンバー2

 紀元前4世紀、孔子がある土地を通りかかった時、墓前で泣く婦人を見かけた。
「なぜ泣いているのか」
「舅、夫、子供が虎に襲われ、死んでしまいました」
「なぜ虎に襲われるような危険な土地から去らないのか」
「他所の土地に移って、ひどい政治に苦しむよりはましです」
 有名な「苛政は虎よりも猛し」の由来である。孔子が「国を治めるには仁徳が必要」と唱えてから2500年。大国の為政者は「虎もハエも叩く」という聞こえのいいスローガンの下、権力闘争の真っ只中だ。しかしその結果、世界中で株価大暴落が始まった。
(中略)
「あまりにも素人じみた対策が、底なしの株価下落を招いたのは明らかです。習近平に権限が集約し過ぎていることに原因の一端がある。本来、経済政策を担うのは首相の仕事で、経済通の李克強に実権があれば、こんな混乱は避けられたはずです」
 この言葉の本意を知るためには、時計の針を習近平政権発足時まで巻き戻す必要がある。2013年3月、習近平が正式に国家主席に就任した翌日、李克強は首相・国務院総理に就任。習・李体制が本格的に動き出した。
 李は首相就任直後から、中国経済を高成長路線から安定成長路線にソフトランディングさせるため、景気刺激策を実施しない、過度な信用拡張の抑制、3構造改革の3本の柱を主とした経済政策を掲げ、「リコノミクス」と評された。海外のエコノミストはリコノミクスに好意的で、彼の発言を西側メディアは逐一取り上げた。
 しかし、李が中国の市場改革の旗振り役として注目を集めた日々はそう長く続かなかった。
 首相就任の翌年14年1月、新設される党中央国家安全委員会の初代主席に習近平が就任することが決定したからだ。
「国家安全委員会は中国版NSCとも呼ばれ、国内外の安全保障・治安問題に対処するため、人民解放軍、武装警察、国家安全部、外交部などから情報を集約し、党中央直轄の組織として巨大な権限を有している。同時に、新設した全面改革指導小組の組長にも習が就任。全面改革指導小組は、内政、金融などの総合改革を進めるため設立された組織で、李がトップに立つ国務院と重なる面が多い。李は経済、外交、安全保障といった本来首相である自分が担当する実務の権限をほぼ習に奪われてしまったわけです」(前出研究者)
 さらに半年後には、歴代首相が担当し、経済政策の党中央の決定機関である中央財経領導小組の組長が習近平であることが公表された。20年以上続いてきた慣習を破り、習が李から経済の実権を奪取したのはなぜなのか。二人の対立を説明するには、李の生い立ちに触れねばならない
(後略)

 

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