記事(一部抜粋):2016年1月号掲載

連 載

インボイスなき軽減税率

【田中康夫の新ニッポン論】田中康夫

 消費税率10%へと2017年4月1日に引き上げる際の「緩和策」として、「食品表示基準に規定する生鮮食品及び加工食品(酒類と外食を除く)」を対象品目に、適用税率を8%に留め置く「軽減税率」の導入が決定しました。
 VAT=Value Added Taxの呼称で知られる欧州の付加価値税に倣ったと喧伝されます。では、本家本元の英国に於ける付加価値税とは如何なる代物でしょう?
 標準税率は20%。家庭向け電気&ガス、チャイルドシート、生理用品が5%の軽減税率。と記すと、食料品は対象外か、と早とちりされる向きも居られましょう。いえいえ、0%のゼロ税率なのです。
 0%対象は食料品、医薬品、上下水道、乳児&児童衣料、障碍者用機器。そして公共交通、書籍・新聞・雑誌・CD、住宅建築、ヘルメット。更に医療、教育、郵便、金融・保険、土地・建物の譲渡及び賃貸は、そもそも非課税。大人向け衣料等の残りの品目が20%です。
 複数の経済研究所の算出に拠れば、全品目一律課税に均すと10%弱。それが、日本の目指す「中福祉・中負担」国家に暮らす国民の税負担率。翻って極東の“日出ずる国”の「メディア」は、税率10%では福祉政策の維持は儘ならぬと更なる消費税率引き上げ不可避論の刷り込みに余念がありません。
 その一翼を担う新聞は、定期宅配購読に関して軽減税率8%適用を「勝ち取り」ました。が、何とも不可解。英国では「文化」を護るべく書籍・新聞・雑誌・CDはゼロ税率。3%・5%・8%ならば問題なしとの条件闘争は、“へたれ”労働組合のボス交渉を連想させます。
 豈図らんやIMFもOECDも、そしてEU自体も付加価値税=軽減税率を廃止する方向性を打ち出しています。それは低所得者が損をする制度だからです。
 2%の消費税率引き上げで5・6兆円の増税。その「緩和策」として1兆円の恒久減税を食料品に関して行う軽減税率の減税効果は、年収200万円の層で年間9千円。1500万円の層で2万円と試算されています。ならば、1兆円よりも少ない財源で実現可能な、低所得者だけに毎年10万円給付した方が効果的。経済学者・小幡績氏の発言を援用すれば、「アベノミクス自体には賛否が分かれた経済学者、エコノミストも全てが一致して軽減税率には反対し、全ての経済学者とエコノミストが給付付き税額控除こそ望ましいとする根拠」でもあります。
「高度な政治判断」の軽減税率を二百歩譲って認めるとして、インボイス導入が東京五輪開催翌年の2021年4月1日エイプリルフールなのは解せません。益税・損税を共に生まない知恵としてのインボイス=税額票を未導入の「先進国」は日本のみです。
(後略)

 

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