記事(一部抜粋):2016年1月号掲載

社会・文化

「よみうり」が引導渡した船橋オート

胴元より儲けた“公営ギャンブル企業”丸儲けの構図

 オートレース発祥の地「船橋市」で、レース場の存廃をめぐって議会が揺れている。その廃止決定をいち早く世間に広めたのは2014年8月4日付の『スポーツ報知』だった。同紙は後追いで自治体が発表することになった廃止理由とスケジュールを、漏らさず見出しに掲げていた。
《発祥の地 来年度限り》《全盛期の7分の1 止まらぬ売り上げ減《経費負担重なり 7日通達》
 船橋オートレースの主催者は、船橋市と千葉県だ。記事が掲載された日の午後、公営競技担当の船橋市・山崎健二副市長は、市議会の会派代表者会議で釈明した。
「私が今(会議で)語ったようなことが今(報知に)出ている。どうして出ているんだかわからないけども。それで、この方向は間違いないということは答えるつもりでいる。ただ、詳細については12日の記者会見で語るので、これ以上はお答えできないということで(対応したい)。これは経済産業省にも了解とって、千葉県ともやっている」
 選手会が賞金を削るなどの支援策を打ち出すものの、この日以降、千葉県と船橋市は、「売り上げが200%に伸びたとしても決定は覆らない」と再建策をことごとく否定するようになった。それまでは選手を知事室に招き入れ、有志によるふるさと納税を称えていた森田健作千葉県知事も、多忙を理由に面会を拒むようになった。
 報知の記事は俗にいう「新聞辞令」のようなものだったが、その内容に素直に驚くオートレース関係者は誰もいなかった。その記事を持って一斉に走り出した自治体関係者を除いては──。
 公営ギャンブル事業は民間の企業活動と同じ経済活動だ。その事業が立ちいかなくなる責任は、経営トップである主催者にある。しかし、山崎副市長が真っ先にあげたのはオートレースの業界全体の凋落ぶりだ。会派幹部への説明はこうだった。
「競輪、競馬と比べるとオートレースは場の数も圧倒的に少なくて、船橋を含めて全国6場体制。平成3年のピーク3500億円ほど売っていたけれども、平成25年度では687億円。私、ずっとオートレースの業務をやってきているけれども、1000億円割ったら非常に苦しいという。ところが今度は800億、700億。それを割ったら本当にもう立ち行かないというが、それが全体の売り上げ687億というようになっている」
 そして、船橋もその潮流には逆らえないと強調した。
「平成2年に744億。これが船橋レース場としてのピーク。25年はこのピーク時の86%減の103億円。(中略)それで、今後これをどうするかというものに関して、事務レベルでずっと協議を重ねてきたけれども、売り上げが回復できない」
 財政担当者も26年度からの3年間で2.6億円、3.8億円、4.9億円と年々赤字幅が広がるという収支予測を示して、廃止は不可避を印象づけた。
 経済活動である以上、赤字を出してまで継続することはできない。廃止が決定事項だとすれば、閉店セールでも打ち上げて最大限売り上げを拡大し、支出を減らす努力をしなければならないはずだ。しかし県と市は、その事業採算性をさらに悪化させる不可解な行動をとった。
 15年9月のことだ。オートレース場の賃貸借契約をめぐって船橋市と千葉県は、契約書とは別に新たな覚書をオートレース場の施設所有者と締結した。廃止まであと半年という土壇場で交わされた覚書の内容は、オートレース場の年間賃料6億5000万円を県市が施設所有者に保証し、その額に達しない場合は、県市がその額を補填するというものだった。この覚書に基づき、県市は補正予算1億円を要求。船橋市議会は11月にその税金投入を認め、すでに可決された。千葉県は16年2月に県議会にそれを求める予定だ。
 この覚書を交わした相手は『よみうりランド』、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡邉恒雄氏が役員に名を連ねる企業だった。
(後略)

 

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