記事(一部抜粋):2016年1月号掲載

政 治

軽減税率「自公合意」で消費増税は延期の流れ

【霞が関コンフィデンシャル】

 2017年4月に予定されている消費増税は「スキップ」と「実施決定」の二択だが、いまのところ前者の公算が高そうだ。
 安倍政権は14年4月に実施した5%から8%への消費増税を「失敗」ととらえており、財務省の思惑で政権は潰せないという判断に傾いているからだ。
 安倍首相はこれまで「リーマンショックみたいなことが起きない限り消費増税は予定通り実施する」と言っていたが、12月14日の講演では「国民の理解を得られなければ、増税はできない」と微妙に変わった。
 これは、国民の理解を得る=国政選挙で国民の声を聞きたいという意味だと解釈していいだろう。つまり、「客観的な条件である経済状況による判断」ではなく、「政治判断として国民の信を問いたい」に方向転換したのだ。消費増税スキップを視野に入れていることは間違いない。
 軽減税率の対象品目で自公が合意したことも、消費増税スキップを後押しすると筆者は見ている。一部では、これで消費増税の環境が整ったという見方があるが、逆ではないかと思う。
 公明党の意向を飲んで、軽減税率の対象は生鮮食品、加工食品(酒・外食を除く)となった。言うまでもなく、軽減税率の導入は、消費税率を8%から10%に引き上げることを前提としており、対象品目については消費税率を8%に据え置くというものだ。
 しかし、欧州などすでに軽減税率導入の歴史がある国ならともかく、初めての日本で「線引き問題」が起きないはずはない。それが予想されるのに消費増税を政治的に通すのはかなりの難問である。つまり、軽減税率問題で自公が合意したことが、逆に、消費増税スキップの補強材料になるとの見立てだ。
 ここで、軽減税率騒動を振り返っておこう。
 税制改正は毎年おこなわれているが、常に与党の主導である。与党が改正内容を決め、そこで決まった内容を政府が法案化している。他の政策は、政府が主導して政府内で法案を作成し、それを与党が了承するので、税制だけ与党と政府の関係が逆転している。とはいえ、税制は与党主導といっても、財務省がその裏で影響力を発揮している。
 軽減税率に関しては与党内の関係が微妙で、自民党は消極的である。その背後に控える財務省も軽減税率の導入は回避したい。軽減税率は、何を対象にするかという線引きが実務上困難なことに加え、本来保護すべき低所得者以外にも恩恵が行き渡るため、減収額が大きくなるというデメリットがある。そのため低所得者だけを対象とする給付制度のほうが望ましいとされている。
 しかし、こうした軽減税率のデメリットを承知のうえで、公明党は軽減税率を主張してきた。その公明党の背後には、選挙での協力関係を重んじる官邸が控えている。
 つまり、軽減税率をめぐっては、「自民党・財務省」VS「公明党・官邸」という珍しい構図になっている。
「軽減税率導入による減収分を補うための財源は4000億円」という報道が一時流れた。この「4000億円」は安倍首相の指示とされたが、官邸の菅官房長官は「具体的な数字は言っていない」と反論した。
「4000億円」は、食品のうち生鮮食品のみを軽減税率の対象にした場合の数字で、加工食品まで含めると減収分は1兆円規模になる。4000億円という数字からは官邸が「自民党・財務省」と公明党の間でバランスをとることに苦心していたことが窺える。
 政治家同士の話なので、軽減税率の対象に「梅干しやノリ、豆腐、納豆が含まれないのはおかしい」と朝食の定番メニューを例にして加工食品を適用すべしとのやりとりもあったようだ。結果として公明党の要求の丸呑みし、加工食品も対象とすることで決着した。公明党の後ろにいる官邸が自民党・財務省を押し切った格好だ。
 とはいえ、軽減税率にかかわる懸念は、17年の消費再増税がスキップされるなら杞憂に終わる。状況はその方向に向かいつつある。
 民主党の枝野幸男幹事長は、軽減税率の導入について「明確に民主、自民、公明の3党合意が破棄されたと言わざるを得ない」と述べ、消費増税に反対する意向を示している。
 3党合意をよく読めば、軽減税率の導入がそれに反しているとまでは言えない。政治合意文章は融通無碍に書いてあるからだ。にもかかわらず、枝野幹事長がそう主張をするのは、消費増税反対で先手を打ちたいからだ。
 軽減税率をめぐる自公協議の最中、「消費増税延期で来年7月に衆参ダブル選挙」という噂が流れた。昨年の総選挙で民主党の海江田万里代表(当時)が当初、消費増税賛成と言っていたが、慌てて取り消すなどブレまくり、結局惨敗したことへのトラウマがあるのだろう。
 GDP統計方法の改定で2期連続マイナス成長は免れたものの、消費低迷によってGDPが冴えないのは事実だ。しかも、補正予算は3兆円余で力不足。野党も消費増税延期を主張。それでも与党が増税実施にこだわれば、選挙での大苦戦は必至だ。
(後略)

 

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