記事(一部抜粋):2015年12月号掲載

社会・文化

横行する療養費の不正請求元凶は「レセプト代行団体」

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

 今年11月、指定暴力団住吉会系組長が柔道整復師らと共謀し、「療養費」を不正請求していたとして警視庁組織犯罪対策4課に逮捕された。この療養費の不正請求、暴力団の大きな資金源(同事件の詐取額は約1億2000万円)になっていたと見られることから、これを機会に、年明けから療養費の保険請求の厳格化に向けた取り組みがなされるようだ。
 不正な保険請求は、すなわち我々の税金の無駄使いを意味するので、厳格化は結構なことだ。
 ただし、その審査の甘さに付け込んで療養費の不正請求をしていたのは暴力団だけではない。否、暴力団は警察の締め付けが厳しいなか最近になって参入してきたにすぎない。これまで長年、巨額の不正請求で甘い汁を吸ってきたのは療養費申請の代行業者、いわゆる「レセプト(健康保険組合に提出する月毎の診療報酬明細書)代行団体」で、ここにメスを入れなければ意味がない。
(中略)
 大阪府八尾市に「D柔道整復師協会」というレセプト代行団体がある。
 名称はまるで公的な団体のようで、その本部を訪ねてもその名称の立派な看板が掲げられている。しかし実態は「D柔道整復師協会」という名の有限会社である。しかも前の社名は「サクセス」。どうやら休眠会社を社名変更してそれらしく見せているにすぎないようだ。
 その有限会社の取締役には、05年11月から昨年10月までの10年間、「織田」と「M」なる人物が就いていた。
 その織田氏は「W情報システム」(大阪府堺市)という会社の代表であり、M氏は同社の営業部長である。
 そのW情報システムが新聞紙面を賑わせたのは今年4月のことだった。
 同社は接骨院向けのレセプト請求システムの開発・販売をおこなっている会社だが、接骨院側に無断ないし誤信させて架空のリース契約を結び、リース会社から機器の販売代金を詐取した疑惑が持たれている。
 告発した元社員が次のように解説する。
「W社が開発・販売しているのは接骨院向けのレセプト請求ソフトウェアですが、そのソフトを、高額なコンピュータ機器、あるいは他の医療機器と称するものと抱き合わせで販売している。不用な機器を抱き合わせで購入することに接骨院が応じたのは、たとえば500万円の機器をリースで購入したとすると、それをすぐにW社に返品することで、300万円のキャッシュを手にできるからです。過当競争で経営の苦しい接骨院は多く、毎月のリース会社への支払いは数万円だから、目の前のまとまった現金は魅力。むろん、これは違法行為ですが、W社は接骨院に『この業界では当たり前。リースのかたちにしておけば24時間何があってもサポートする』などと言いくるめていたんです」
 これだけなら、問題なのはこのW社だけだが、そんな違法販売をしていたW社の社長と営業部長を、D柔道整復師協会はなぜ、長年にわたって取締役に就けていたのか。それはD柔道整復師協会にとってもメリットがあったからだ
「D柔道整復師協会はW社のレセプト用ソフトを使用していました。確かに、そのソフトは他社のものより使いやすかった。D柔道整復師協会に入会した接骨院はそのソフトを無料で使うことができた。ただし脱会すると使えなくなり、接骨院は新たな形式でレセプトを出さなければならなくなる。だから一度入会すれば簡単に脱会できない仕組みになっていたわけです。一方のW社の方は、協会で自社のソフトが使用されれば権威づけになるし、当然、さまざまなマージンも受けていたはずです」(同)
 要するに、架空リースをやっていたW社と、レセプト代行団体は癒着関係にあった。昨年10月に織田氏とM氏の二人がD柔道整復師協会の役員を揃って辞めたのは、架空リース疑惑が表面化し、告発されるのを見越してのことだと思われる。
 しかし、二人は現在も、D柔道整復師協会と密接な関係にあるという。
「営業部長のMは、協会(=レセプト代行団体)の営業も兼務していました。そして協会の営業をする際には、『国民健康保険組合の大阪の審査会メンバーにうちの協会の役員が入っている。発言力もある』と、審査基準のインサイダー情報が入ることを仄めかし、それを売りにしていたのです」(D柔道整体師協会にかつて加入していた接骨院経営者)
 その審査会で、審査の重点ポイントが内々に変更されても、インサイダー情報が入るので、それに対応したレセプトを請求するから、請求はスンナリ通る──。それを売りにしていたというわけだ。事実なら確かに大問題だ。
 その審査会メンバーとはO氏を指す。
 このO氏、D柔道整復師協会にあっては肩書き上は一取締役にすぎない。しかし、関係者によれば同協会の代表はお飾りに過ぎず、実際はO氏が仕切っているという。それは監査役にO氏の妻が就いていることからもうかがえる。
 では、O氏とはいかなる人物なのか。
(後略)

 

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