B IPOの最大のイベントだった日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命の上場が11月4日にあったね。
C 3社とも売り出し価格を大幅に上回って取引を終え、取りあえずは成功と言ったところ。超大型株の上場だけに、需給のバランスが崩れて普通なら株安となるところだった。
A 同じ政府系同士だけに、「5頭のクジラ」のなかの一つであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)あたりと事前のすり合わせをしたんじゃないかな。
B 事前のすり合わせ?
A そう、郵政3社の上場前の10月にGPIFは日本株をかなり売却したらしく、郵政の上場に向けた資金づくりと見られていた。要するに国民の年金資金を利用した郵政3社の買い支えだ。
B 5頭のクジラというのは、GPIFに日銀、地方公務員共済組合連合会などの3共済、それにかんぽ生命とゆうちょ銀行だったと思うけど、そんなに買い余力があるんだろうか?
C 推定だけどGPIFが7兆円、3共済が3.4兆円、かんぽ生命が8兆円でゆうちょ銀行が10兆円、日銀については年間3兆円と、これだけで30兆円を超える。
A 年金基金の運用といえば、世界的に有名な米カリフォルニア州の公務員の年金基金「カルパース」の運用資金が30兆円だ。それに対してGPIFの運用資金は137兆円。かんぽ生命83兆円、ゆうちょ銀行205兆円、3共済が30兆円だから、まさに5頭のクジラ。言い方は悪いかもしれないけど、世界最大の“仕手筋“だ。
B 5頭のクジラが日本株を30兆円も買い増すとなると、日本株は確実に右肩上がりになるね。
C ゆうちょ銀行の投資計画を見ると、「17年度には外国債や株式への投資を現在の46兆円から60兆円に増やす」となっている。だから厳密に言うと、ゆうちょ銀行の買い余力の14兆円すべてが日本株に向かうわけではない。
A そこがミソで、「アベノミクス」と「黒田バズーカー」の究極の目的は、米ドルの買い支えにあると思う。大規模金融緩和策をQE1からQE3まで続けたのだから、本来ならもっとドル安になっていたはず。しかし、第2次安倍政権が発足して日銀が強烈な「円売りドル買い」をしたおかげで、米国は大規模金融緩和を中止することができた。
B しかし、米国が出口戦略として12月にも金利を上げるとすると、QE3までやって世界中にバラ撒かれたドルの回帰現象が起きるんでは?
C 世間ではそういう話になっていて、その時のためにすでに対策を講じているところが多いようだ。
A 実は先日、Cさんが言うような現実を目の当たりにした。ある中小企業の決算書をチラッと見せてもらったんだけど、経常段階では数千万円の赤字なのに当期純損益は何と数億円の黒字計上になっていた。
B 何らかの特別利益を計上したということになるね。まさか為替差益?
A そのまさか。ドル債投資による為替差益の計上だ。
C 数億円の為替差益って、いったいいくら投資したの?
A レバレッジを利かせているから、元金がいくらなのかはわからないけど、銀行の強い勧めによる投資で、すべて借り入れでやっているということだった。
C アベノミクス効果と言ってしまえばそれまでだけど、これってバブル現象そのものだね。
A こんな小さな会社に、借り入れでハイリスクのドル債投資をさせるなんて金融機関も狂っているとしか思えない。気がつかなかったけど、こうした事例はほかにもずいぶんとあるに違いない。
B 為替の設定はいくらなの?
A 124円30銭くらい。もし為替が115円くらいで推移すると、会社が倒産するか、銀行が損失を被ることになると思う。
C 銀行の動きというのは極端だから、今後のマーケットを占ううえで参考になる。たとえばバブル真っ盛りの1989年のこと。うちの会社に出入りしていた銀行マンが社員全員に、200万円まで借りられる銀行のカードを押し売りしていた。その時のセールストークが「投資信託でも買えばいいじゃない」。その後、数カ月で日本のバブルはピークに達し、日経平均株価はそれから10カ月で半値になった。
B この指標からすると、ドルのバブルが崩壊すると?
A いざっとなったら5頭のクジラが買い出動すると思う。とにかく日本の中小企業でさえ、すでにここまでドル債に投資しているわけだから、米国の利上げによるドルの回帰現象は起こらないかもしれない。
(後略)