膨らみ続ける介護費を抑制するためにこの4月、9年ぶりに介護報酬が引き下げられた。下げ幅は平均で2.27%。利用者から見れば利用料の値下げになるが、事業者から見れば収入の減少。そのため事業者のなかには、減収分を取り戻そうと介護報酬の過剰請求、架空請求に手を染めているところが少なくない。
関東甲信越地区の某県に本社をおく建設・不動産会社のA社は、数年前に介護業界に進出。現在、県内を中心に数十カ所のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を運営している。
サ高住は基本的には元気なうちから入居ができ、介護が必要になったら外部の介護保険サービスを受けることが可能。しかし実態は、介護が必要な人向けの賃貸住宅が多く、ほとんどのサ高住は実質的な介護施設になっている。A社もその例に漏れず、同社はホームページなどで「介護業界県内ナンバーワン」を謳っている。今後も施設の増設を急ピッチで進める計画だ。
高齢化が今後ますます進み、高齢者向け住宅の需要も増えていく。事業者にとってビジネスチャンスが広がることは結構だが、A社が運営する施設で施設長を務めた元社員によると、同社ではデイサービスや訪問介護で介護報酬の過剰請求・不正請求を会社ぐるみでおこなっていたという。
「施設の入居者が朝の9時からデイサービスを受け、昼食後に自室に戻ったとします。その時点でサービスは終了なので、サービス提供時間は『3〜5時間』として介護報酬を国保連に請求しなければならないのですが、『7〜9時間』で請求をするケースがよくありました」
デイサービスの基本料金は利用時間によって基本料金が異なる。たとえば「要介護1」の人の場合、3〜5時間のサービスで4260円、5〜7時間で6410円、7〜9時間で7350円だ。事業者としては利用者になるべく長い時間までサービスルームにとどまってもらい、より多くの介護報酬を得たい。しかし利用時間を決めるのは利用者。事業者のために朝から夕方までサービスルームで過ごしてくれるとは限らない。
デイサービスは施設の入居者だけでなく、外部の人も利用する。A社では、生活保護を受けている高齢者が、実際にはデイサービスを利用していないにもかかわらず、利用したことにして介護報酬を不正に請求するケースがよくあったという。
生活保護受給者は介護保険内のサービスであれば自己負担をしないで済む。サービスを受けたことにされても受給者が実費を負担することはない。施設側としては架空請求がしやすいということなのだろう。しかしこれは、生活保護受給者をダシにした悪質な“貧困ビジネス”である。
(後略)