記事(一部抜粋):2015年11月号掲載

経 済

日本郵政の大きすぎるリスク

【情報源】

 日本郵政グループ3社がついに株式を上場したが、様々な矛盾と膨大なリスクを抱えている。
 前例のない親会社の日本郵政と子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命の“親子上場”を政府がゴリ押し、しばらくは一部国有化が続くことで事実上の政府保証が付くなど上場後も民間とのいびつな競争環境も残る。ゆうちょ銀の収益力につながらない預入限度額の引き上げ議論も「来夏の参院選を控えて、高い集票力を持つ全国郵便局長会を取り込みたい」(永田町関係者)との自民党の思惑が透けて見える。さらに、シティバンクやゴールドマン・サックス証券出身者が重職に就いたゆうちょ銀では米国債の購入が急増、かんぽ生命は米アフラックと提携するなど外資の影も着実に忍び寄っている。
「株価依存内閣」といわれる安倍政権にとって、「ETF(上場投資信託)」「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」「共済年金」に続く最後の切り札が、「ゆうちょ&かんぽマネー」。いわゆる「5頭のクジラ」と呼ばれる公的な大口投資家を動員した安倍政権の株高政策だが、ゆうちょ銀が国債購入の3割を株式に振り向けるだけで40兆円もの巨額の資金がマーケットに流れ込むのだからその威力は計り知れない。一方で、国債購入の財布と化し、国民の虎の子の財産が刹那的なマネーゲームのリスクに晒されることになる。
 肝心の日本郵政グループの成長戦略も全く見えてこない。それどころか、上場と相前後して業績は下り坂に入ろうとしている。グループ純利益の8割近くを稼ぐゆうちょ銀の運用収益の悪化によって日本郵政の連結純利益は3年後には320億円も目減りするという。なかでも最大のアキレス腱が、赤字体質のうえ上場を機にゆうちょやかんぽからの配当収入が減少する郵便・物流事業だ。今年5月に日本郵便が豪物流大手のトールホールディングスを6200億円で買収して国際物流のテコ入れを打ち出したものの、これとて上場前の“お化粧”の域を出ない。そもそも日本郵政は典型的な官僚体質のドメスティック企業であり、合併によるシナジー効果は望めない。「国の信用で築き上げた財産で佐川急便や日立物流あたりを買収するくらいしか生き残り策は見当たらない」(大手シンクタンク)と冗談交じりに囁かれるほどだ。
 グループの稼ぎ頭である金融2社も明確なエクイティストーリーは描けない。預金残高177兆円のゆうちょ銀は有価証券の運用資産が76%を占め、そのうち日本国債が100兆円、業務純益率は地方銀行の半分の0.25%にとどまる。今後の金利上昇で国債価格が下落すれば巨額の損失は避けられない。かといって与信管理や資産運用ノウハウがないまま、リスク資産や融資を拡大すれば多額の不良債権を抱え込むのは火を見るより明らかだ。
(後略)

 

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