記事(一部抜粋):2015年10月掲載

連 載

「戦争法廃止の国民連合政府」構想の快挙

【コバセツの視点】慶應大学名誉教授・弁護士 小林節

 9月19日(土)の未明に、新安保法制(私の言う「戦争」法)が強行採決で成立した。
 これは政権による二重の憲法破壊である。第1に、海外派兵を明文で禁じた平和主義(専守防衛)の蹂躙であり、第2に、議会制民主主義の否定である。だから、今回の暴挙は、憲法を遵守する政治、「立憲政治」の否定だと呼ばれている。
 これに対していち早く反応したのが日本共産党である。同党は、中央委員会を開き、「国民連合政府」構想を決定、発表した。それは、今回の自民・公明両党によるあからさまな憲法破壊に反対する……という一点を共有できる5野党(民主・共産・維新・社民・生活)等、全ての組織と個人が連携して国政選挙を戦い、政権交代を実現し、それによって今回の暴挙を取り消す閣議決定と改正法の成立を行おうという提案である。
 まさに「わが意を得たり」の思いである。
 私は、これまでの論争の中で、「政治の過失は政治で取り戻そう」、「ナチスに学んだ自・公に学ぼう」と繰り返してきた。
 それは、相対的多数派が絶対的多数の議席を獲得できるようになっている現行選挙制度の下で、自公両党が「鉄の」選挙協力でたった3割の得票率で7割の議席を獲得してその力で暴挙を遂行したやり方に、野党等も「賢く」学んで、「立憲主義」の一点共闘で、政権交代を実現し憲法状況を逆転させよう……という提案である。
 もちろん、それに対しては、政権側とその御用メディアと御用言論人から、それは「野合」であるという批判が返ってくるだろう。つまり、さまざまな政策で一致しないから別々の党である者が単に選挙で勝つためだけに協力するのは邪道であるという批判である。しかし、その批判は当たっていない。まず思い出してほしい。今回の安保法制議論が始まった頃に、「平和の公明党」の矛盾を批判した私たちに、公明党は、自・公は別々の党であるから政策は違っても当たり前だし、「憲法」は政権協定の項目に入っていない……と言い放った。まさに、自・公こそが政権だけを目的にした野合だと自認したようなものである。
 それに対して、今回の国民連合政府構想はむしろ真っ当な提案である。
 まず、今回、自公政権は、「ナチスに学んで」、あろうことか下位法である法律で最上位法である憲法を否定する挙に出た。これは、確かに、ナチスと同様な独裁政権の誕生である。これをこのまま許したら、わが国は北朝鮮と同じ政治体制になってしまう。だから、今回の暴挙を覆して立憲政治を回復させることは、他のいかなる政策課題にも優先する喫緊の課題である。
 だから、今回の暴挙に反対して国会で敗北した野党各党は、それこそ「自・公に学んで」全国の国政1人区(小選挙区)で、事前に十分な協議調整を行い、各1名の統一候補を立て全党で協力し合い、それこそ、4割の得票で8割の議席を獲得し、政権交代を実現すべきである。
 この作業には具体的にはさまざまな人間的な困難が伴うであろう。例えば、過去の選挙の際に争った体験から来る不信感、労組内の主導権を争った体験から来る不信感、地方議会内でその運営を巡って争った体験から来る不信感等、不安は絶えないであろう。しかし、何よりも安倍独裁だけは許せないはずである。

 

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