9月2日、東京都の信用金庫理事長が一堂に会する経営者懇談会が東京都信用金庫協会で開かれた。来賓に招かれたのは乙部辰良・関東財務局長をはじめとする同局幹部の面々。勉強会を兼ねているものの、実質的には7月の人事異動で新体制となった関東財務局幹部と都内信金役員の懇親が目的である。例年、勉強会の後に会食がおこなわれる。
しかし、この日は違った。乙部局長は挨拶を終えるとそのまま財務局に帰ってしまったのだ。残った他の幹部も局長の後追うように帰局、10分もたたずに官僚の姿は会場から消えた。財務局幹部との懇親を楽しみにしていた信金理事長たちは茫然とするばかり。これでは意味がないと半数が地元信金に戻ってしまったという。
乙部局長がこうした態度をとったのにはそれなりの理由がある。東京都信用金庫協会の佐藤浩二会長(多摩信用金庫会長)への抜き差し難い不信感にほかならない。その事情については『週刊新潮』が詳しく報じているように、菅直人元総理の実母に対する多摩信金による情実融資ともとれる不透明な融資や、プレミアム商品券をめぐる多摩信金職員の不正購入など枚挙にいとまがない。
(中略)
金融庁・関東財務局が佐藤会長に対する疑念を持ち始めたのは2013年春からである。その年の3月に佐藤氏(当時は理事長)が反社会的勢力の人物と目されるM氏の夫人の葬式に参列したとの告発が寄せられたのが始まりだった。M氏はヤミ金融の経営者で、佐藤氏は国立支店長時代から付き合いがあるとされ、参列姿は金庫職員はじめ多くの顧客に目撃されていた。佐藤氏は内部で「M氏はすでにヤミ金融から足を洗っている」と強弁したようだが、多摩信金の内部資料では依然として反社会的勢力リスト上に載る要注意人物のままだった。警察庁が金融機関と反社勢力との付き合いを厳しく指弾している最中の葬儀参列だっただけに、金融庁はその軽はずみは行動に眉を顰めた。
事態を重く見た関東財務局は昨年5月から立入り検査に着手。異例なことに金融庁本庁の検査官も同行して徹底した検査が展開された。同時に金融庁には「続々と内部告発が寄せられた」(金融庁関係者)という。その多くは20年の長きにわたって同金庫の経営を壟断してきた佐藤会長の独裁支配を厳しく批判するもので、金庫内部でしか知り得ない反社勢力との関係やM氏への不正な融資と償却の情報も含まれていた。
実はこの金融庁検査は1年以上が経過した現在も続いている。いわゆる「経過観察」と呼ばれる状態で、金融庁はいまだに明確な形で検査結果を示達していない。それは金融庁の検査でも当該のM氏向けの融資の実態が解明されていないからだ。それは多摩信金が検査官に対し徹底した隠蔽工作をおこなったからにほかならない。
その舞台裏を示す資料を弊誌は入手した。そこには、M氏向け融資の処理について佐藤氏(当時は理事長)の関与を示す内容や金庫を上げて検査官に情報を隠蔽した事実などが記載されている。
(後略)