記事(一部抜粋):2015年10月掲載

政 治

お粗末「還付案」の狙いは消費再増税の既定事実化

【霞が関コンフィデンシャル】

 消費税率を10%に引き上げる際、食品などに軽減税率を適用する代わりに、事後的に還付をおこなうとする財務省案は、あまりにも突っ込み所が多く、白紙に戻されるのは必至の情勢だ。いったい何で、財務省はこんなお粗末な案を出してきたのだろう。
 その案が最初に伝えられたのは、9月5日、G20に出席していた麻生太郎財務相の口からだった。
「軽減税率は面倒くさい。給付金で対応する」
 外遊先から財務相が発した重大情報にマスコミは飛びつき、与党協議をしていた自民・公明両党の議員からも「寝耳に水」という声があがった。
(中略)
 還付金は、高額所得者も恩恵を受ける軽減税率と違って、低所得者層に恩恵を絞れるので、政策的に望ましい。実際の還付方法としては、(1)簡素な給付(所得に応じて還付額を推計)、(2)領収書を使って還付、(3)マイナンバーカードを使って還付──という3つがあるが、(1)→(2)→(3)となるにつれ、実施コストが高くなり、また問題も多くなる。
 (1)は、消費税率を8%へ引き上げた際にすでに実施されている。住民税が非課税の世帯に対し、市町村への申請をおこなえば6000円/年の「臨時福祉給付金」を給付するというものだ。(2)も諸外国ではよく見られるものだ。ただし、(3)はいただけない。もっと簡単で、実際に使われてもいる方法が別にあるのに、財務省案は野心的な(3)をあえて出してきた。
 当然ながら、4000円は少なすぎるとか、マイナンバーカードを常に持ち歩かないといけないのは不安であるとか、食品購入をクレジットカード決済にするようなもので小売店の設備負担が大きいとかの批判が噴出した。
 たしかに(3)の方式では、マイナンバーカードに対応する端末をすべての小売店に強制することになので、財務省はIT業者の回し者かと思ってしまう。ある新聞などは、還付のための「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」の設立まで解説していた。この「(仮称)」でわかるように、役人がよくやる「天下り機関」の新設まで予定していたわけだ。
 あまりにもあざとい案で、誰でも指摘できる問題点が多すぎる。まるで指摘してくれといわんばかりだ。
 堅実な財務官僚ならこう考える。
「まだきちんと整備されていないマイナンバー制度を使うのは無理筋だ。マイナンバーが届かないなどのトラブルが発生する可能性だってある。税務署に苦情が殺到でもしたら、通常の税務がおこなわれなくなることも考えられる。状況を慎重に見極めよう」
 では、なぜ財務省はこのような案を提示したのだろう。
 それはずばり、2017年4月の10%への消費再増税を既定事実として国民の脳裏にすり込むためだ。
 財務省にとっては、10%への消費再増税の実施が最優先で、還付案など極論すれば潰れてもかまわない。仮に還付案が通れば、還付のための「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」ができて天下り先が一つ増えてよかった、という程度のことだ。再増税のためなら、上限の4000円が1万円になっても構わないだろう。
 麻生財務省を使った打ち上げ方からみても、財務省の仕掛けの意図が感じられる。麻生氏にG20の同行記に還付案を語らせたことによって、G20の内容よりも、消費税還付のほうが日本では紙面をとった。
 G20は中国経済の先行きを懸念する議論で終止した。中国経済が怪しいなら、17年4月からの10%への消費再増税は、世界経済にとってはやってはいけない愚策である。日本経済をよくして、世界経済の牽引になるべきところが、消費増税では逆政策だ。
 ところが日本では、消費税還付の方法ばかりが議論になって、その前提である消費増税の実施そのものの是非についての議論、つまり中国経済の異変が明らかになったこの時期に、日本の消費増税が巡り巡って世界経済にいかなる影響を引き起こすか、そういったと本質的な議論が起きづらくなっている。
(後略)

 

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