記事(一部抜粋):2015年8月号掲載

連 載

「戦争反対」だけでは平和を守れない現実

【中華からの風にのって】堂園徹

(前略)
 中国政府の長年に渡るプロパガンダによって、多くの中国人は尖閣を中国領だと信じこんでいる。日本に好感を持っている中国人でもそうだ。
 筆者は尖閣の話をする中国人に次のように反論している。
「戦争に勝てば、戦勝国は敗戦国から取るべき領土を取っているので、戦勝国から領土問題が提起されることはないはず。日本が無条件降伏した時に、中国が尖閣を自国の領土として占拠していれば、日本は対抗できなかっただろうし、アメリカもそれを認めたかもしれない。戦後25年も経ってから主張するのは筋が通らないのではないか」
 これに対して何も言えなくなってしまう人もいれば、「戦後の混乱期で中国はそこまで意識が回らなかっただけ。尖閣はあくまで中国領」と言い張る人もいる。
 しかし筆者は、それ以上は議論しないようにしている。
 なぜなら、領土問題と歴史問題は別物なのに、中国政府は日本に侵略された歴史の延長線上に尖閣の問題があると国民に伝えているため、尖閣について議論すると、中国人は日本に陵辱された悔しい思いと重なってエモーショナルに反応してくるからだ。
 中国が尖閣は自国の領土だと徹底的に自国民に吹き込むのに対して、日本は、尖閣を日本領だと強く主張すると中国を刺激することになるからと遠慮してきたきらいすらある。だから国政を預かる政治家のなかにも「尖閣の領有権に争いがあることを認めるべきだと」主張する人まで出てくる。日本は言論の自由が保障された民主国家なので、どのような意見でも主張できる。それが日本の良さなのだが、中国はそれを逆手にとって自国のプロパガンダに利用する。尖閣は中国領だと考える少数の政治家や学者を見つけては、「日本人も尖閣は中国領だと言っている」と国民に伝えるのだ。
 筆者がよく見る中国中央テレビの「海峡両岸」という時事番組は、尖閣や南シナ海の問題を頻繁に取り上げている。今年6月に日本とフィリピンが同時に軍事演習をおこなった時も、「南シナ海を攪乱するのは誰か」という題目でこれを取り上げた。
 ゲストの評論家はこうコメントしていた。
「日本は侵略戦争をしたことを認めず、謝罪も反省もしない、国際的に評判の悪い国だ。しかも今度は、当事国でもないのに南アジアに介入しようとしている。しかし、日本では新しい安全保障法案に反対する人が多いので、安倍総理の野心は達成されないだろう」
 番組は、アメリカや日本の介入は中国に対する不当な封じ込めであり、自国領土内での活動に対して他国がとやかく言う権利はないと説明、こうした介入をアヘン戦争以後に列強に圧迫された屈辱の歴史と関連させつつ、「いまの中国は昔の中国と異なり、恥辱の歴史を繰り返すことはない」と強調していた。そして女性司会者がこう締めくくった。
「日本はトラブルメーカーの国。南シナ海の不安定要素は日本です」
 また別の日の同じ番組ではこんな指摘もしていた。
「アメリカも日本も当事国ではないので、フィリピンのために自国民の血を流すようなことはしない。だから最終的には中国が勝つだろう」
 南シナ海の領有権をめぐる紛争で、フィリピンは国際仲裁裁判の申し立てをしたが、中国は仲裁手続きを拒否し、領有権問題は当事国同士で解決すべきだと一貫して主張している。そこにはフィリピンを小国と見下す大国のエゴがむき出しになっている。
 中国の報道番組を見ていると、中国は南シナ海にアメリカや日本が介入してくることに非常に神経質になっていることが理解できる。もし日本が世論の反対などによってフィリピンに自衛隊を派遣できないとなれば、中国にとっては願ったりかなったりである。
 しかし、日本が南シナ海での中国の暴挙を看過し、その覇権を許すようなことがあれば、東シナ海でも同様の行為をとらせる誘い水にならないとも限らない。
 戦争をすべきでないのは当然のことだが、ただ反対するだけでは、かえって中国の軍事的行為をエスカレートさせる可能性があることを併せて考えなくてはいけない。

 

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