記事(一部抜粋):2015年8月号掲載

経 済

ユーロ危機で得をしたドイツ、ギリシャ債務問題と中国株急落

【証券マンオフレコ座談会】

B ギリシャ危機で一時、世界の株価が急落したけど、EUが提示した緊急財政案がギリシャ議会で承認されたことで一旦は平穏を取り戻した。今後の動きはどうなるのだろう?
C 平穏といっても一時的なこと。火種はいくらでもある。というのも、そもそもユーロにギリシャを加盟させたこと自体に瑕疵があったと言われている。
B 瑕疵って?
A Cさんは「米大手投資銀行のゴールドマン・サックス(GS)が、ギリシャの債務隠しに加担したから、ユーロに加盟できた」と言いたいんじゃないの?
C そう。ユーロ加盟の条件は財政赤字をGDP比3%以内に収めること。この条件をクリアするためにギリシャの将来の30年分の空港税と宝くじの収益を担保にGSが数十億ドルの資金を提供する密約を交わし、そのうえでギリシャは、その資金を融資ではなく為替取引として計上したと言われている。
A 確かにそんな話が、何年か前の米紙に書かれていたね。
C 書いたのはニューヨーク・タイムズ紙。GSは他のユーロ加盟国とも似たような密約を交わしたと言われているから、この問題はギリシャだけにとどまらないかもしれない。
B そこまでして、過去に何度もデフォルト(債務不履行)を繰り返してきたギリシャを、ユーロに加盟させる意味があるの?
A それは、ユーロにギリシャが加盟したことによって、どこの国が一番恩恵を受けたかを見ればわかる。ひと頃の日本を見ればわかるように、貿易で稼ぐことができる経済力がつくと為替は円高になり、貿易で稼ぐことはだんだん厳しくなる。それはギリシャに一番金融支援しているドイツも同じこと。近年のギリシャ危機でユーロ安となり貿易面で一番恩恵を受けているのはドイツだ。
B するとギリシャがユーロから離脱されて困るのはドイツなわけだから、口では強硬な緊縮策を要求しているように見えるものの、離脱まで追い込む気はサラサラないということだね。
A 経済合理性から言うと、そういうことになる。
C ドイツなど貿易に強い加盟国側の論理ではそうなのかもしれないけど、基軸通貨ドルによって覇権を維持したい米国が、対抗する単一通貨ユーロの導入を認める一方で、敢えてそのなかにギリシャという火種を入れさせたような気がする。
B ところで、今回のギリシャ危機のすぐ後に中国株が急落したけど、関連性はあるのかな?
A 多くの識者は「関連はない」と言っているし、マスコミもバカのひとつ覚えのように、「中国のバブルが弾けた」としか書かない。でも、それはどうかと思う。
C 中国で信用収縮が起きているのは5月の社会融資総量が前年比12.9%のマイナスになっていることを見ても明らか。それに、増え続けていた外貨準備高が減少し始めたのが気になるところ。
B 3月末には2600億ドルもの減少になったと言われている。
A 2600億ドルといっても、約7%。巷間言われるように、そのなかには習近平政権がおこなっている共産党幹部らへの汚職の摘発による資本の流失というか、裏金の逃避が起こっている可能性もある。しかし、基本的には投資先債券の減価と見られている。
B 貿易で稼げなくなっていることが原因では?
A 民間の貿易取引は原則カウントされないから貿易ではない。残高に一番影響を与えるのは自国為替の介入によるものと、保有債券の評価額の変動。
C 3月の日本の外貨準備高を見ると340億ドル以上の減少となっている。その原因のかなりの部分は、ユーロ建て債券の評価額の減少だった。同様にここ数年前からのユーロ危機で、ギリシャを始めとするユーロ各国の国債を一手に買い支えしたのが中国。結局、このユーロ建て債券の減価額が大きかったのかもしれない。
B このユーロ危機の際、覇権国を自称する米国は自国の財政難を理由にビタ一文も資金を拠出しなかった。そうした背景があったからこそ、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足に際し、イギリスを始めとするユーロ各国が参加を表明することになったのかもしれない。
A そういう観点からすると、今回のユーロ危機のすぐ後に上海総合指数が急落したのは興味深い。
(後略)

 

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