記事(一部抜粋):2015年8月号掲載

政 治

安倍総理、日本をどこへ連れて行くのですか?

【コバセツの視点】小林節

「日本を取り戻す」ために「戦後レジーム(体制)から脱却する」という安倍総理の口癖はそれなりに筋が通っている。つまり、(賛否は別にして)大日本帝国として欧米に戦を挑み敗北し、その結果、憲法改正という国家の在り方を根本的に変更することを強いられたわが国が、憲法改正(自主憲法の制定)により、日本らしさを取り戻す……という首相の持論は分かり易い。
 しかし、その首相が、「平和」安全法と自称する法律(実質は「戦争」法)を制定して、今後は、日本の自衛隊が、「世界の警察」アメリカの「二軍」のように地球上で戦争に参加する政策を主導しているようにしか見えない。つまり、「アメリカから独立するぞ!」と息巻いている政治家が日本をアメリカの属国にするお膳立てをしているようで、理解に苦しむ。
 そこで、改めて、まず私なりに先の大戦の総括をしておきたい。思うに、あの大戦は、明治憲法という不十分な憲法体制がもたらした愚かな戦であった。旧憲法の特色は、天皇主権(つまり、民衆の側に政治に対する拒否権がなかった)と、人権の不存在(つまり、国家権力が認めてくださる限りで有効な「臣民の権利」しかなかった)と、加えて、軍隊の統帥権(指揮権)が独立していた。つまり、軍隊は文民統制(政治による管理)を受けずに戦争を遂行することができた。だから、たかだか陸軍大佐が満州で始めた戦争に国全体が引き摺られてあの大戦で惨敗を喫してしまった。
 その結果、わが国は自ら勝ち取ることはできなかったが、「国民主権」「人権尊重」「平和主義」の三大原理に立脚した素晴らしい憲法を「押しつけ」てもらうことができた。
 この日本国憲法の下で、自由で豊かで平和な大国として奇跡的な復興を遂げた日本を、安倍総理は、米軍の二軍にして、どこへ連れて行こうというのか?
 まず、人数の限られた自衛隊を海外に派遣したら国の守りが弱くなるではないか?
 次に、アメリカの敵イスラムのテロを日本に招くのではないか?
 そして、すでに戦費破産状態であるアメリカの二の舞にはならないか?
 心配である。
 安倍総理が言うように「切れ目のない」防衛を確実にする方法ははっきりしている。まず、民主党と維新の党が提案した領域警備法を制定して、離島が侵犯された場合には、まず海上保安庁が対応するのだが、同時に、「切れ目」のない防衛ができるように海保の真後ろに海上自衛隊が控えている体制を整えればよい。加えて、大臣訓令を改正して、武器使用基準を、「撃たれてから撃ち返す」(現行)から「撃たれそうになったら撃ってよい」(世界標準)に変更するだけで、一気に、威嚇力ひいては防衛力が向上する。それに、憲法を遵守して「専守防衛」に徹して世界の軍事紛争に不介入の立場を堅持すれば、逆恨みによる要らぬ敵を作ることもない。その上で、経済大国、技術大国、人材大国日本の資源を自国防衛のために集中すれば、他国にとって、わが国は、「うっかり手を出したら大怪我をさせられかねない」存在に化けることができる。それこそ必要十分である。
 にもかかわらず、安倍総理は、国会論戦で皆が目撃したように、例えばこのような野党の意見に対して、全く、聞く耳を持たない状態である。
 総理、日本をどこへ連れて行くのですか?

 

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