記事(一部抜粋):2015年5月号掲載

連 載

【新ニッポン論】田中康夫

「バーゼル委員会」

 バーゼルを訪れるべくユーロエアポート=バーゼル・ミュルーズ・フライブルグ空港に到着するや、困惑するでしょう。入国管理官のカウンターよりも手前に預入手荷物引渡場が存在する構造に。EU非加盟のスイス側、EU加盟のフランス側の二手に分かれて入国すると、両国共同運営のターミナルビルも駐車場も“ベルリンの壁”の如く真ん中で二分されている現実にも。レンタカーの料金体系も別々。フランス領内に位置する空港からバーゼル市内に向かう道路は国境を越えるまで、金網で覆われたチューブ状です。
 ライン川沿いのバーゼルは人口17万人弱。世界最大の宝飾・時計見本市「バーゼル・フェア」が開催されるこの街には、薬害スモンを生み出したチバガイギーを前身とするノヴァルティス、何故か世界消費量の8割近くを日本が占めるタミフルのロシュが、ライン川右岸に本社を構えます。
 関西国際空港を手掛けたレンゾ・ピアノ設計で1988年開館の美術館ファウンデーション・バイエラーは、モネやセザンヌ等の印象派を展示。泡沫経済期に日本の金融機関や実業家が競って購入するも、買値を遙かに下回る価額で「バーゼルI」本格適用前後に売却した有象無象の中の「有象」のみを、バーゼルを代表する美術商だったエルンスト・バイエラーが“下取り”した遺産です。
 ライン川左岸のランドマークは、円筒形状の国際決済銀行=BISの建物。バーゼル銀行監督委員会の事務局機能を提供しています。BISは第1次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払を“円滑化”させるべく1930年設立。第2次世界大戦後の1957年に欧州経済共同体=EEC設立の目的も、ドイツの再暴走を防ぐ為でした。
 が、日本と同じく敗戦国で、同じく輸出主導型の戦後経済を歩んできたドイツは過去15年間でGDPを約2倍に拡大します。ほぼ横ばいの日本を尻目に……。而して連邦共和国基本法=憲法で財政均衡の義務を謳うドイツは今年度予算で新規の国債発行を実質ゼロとし、「財政再建」を実現。今や“欧州の盟主”へと躍り出ました。
 比するに、国と地方の長期債務残高が1000兆円を超え、昨年の対GDP比が231.9%に達した日本の今年度予算の国債依存度は38.2%。“トリクルダウン”を掲げたサプライサイド経済学のレーガノミクスが“双子の赤字”を齎すブードゥー経済学へと変容していたアメリカとて、バラク・オバマ政権下で財政再建を敢行。国債依存度は11.9%です。
「実は最近ドイツ、アメリカ、イギリス等が強硬に、銀行が自国(や他国)の国債を持つ事に対して資本を積み増すべきと主張している」。「欧州の一部銀行は、日本国債の保有比率を恒久的に引き下げると決定した」。去る2月12日の経済財政諮問会議で、日本銀行の黒田東彦総裁は発言しました。債務残高が対GDP比で現在の半分程度だった2002年にボツワナ国債と同じ格付けに陥った財務官当時の史実も繙きながら。
 1日の利息の支払いだけでも1億4200万円。財政再建団体転落寸前だった山国の自治体を、県民と職員の協力の下、47都道府県で唯一、在任6年連続で起債残高を計923億円減少させ、基礎的財政収支も7年度連続で黒字化した小生も同様に懸念します。
 自己資本比率増強「バーゼルI」は、貸し渋り・貸し剥しの“失われた20年”を日本に齎しました。「優等生」独米英が再び主導し、日本に代表される低金利環境は将来の金利上昇リスクを高める要因だと「バーゼルⅢ」をより厳格化したなら、国内外の銀行は日本国債を大放出し、財政破綻なる大震災は必至。なのに一向に“人口に膾炙”せぬ民度=眠度の日本です。

 

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