記事(一部抜粋):2015年5月号掲載

経 済

「国債がリスク資産」の衝撃

バーゼル規制に翻弄される日本の金融と財政

 2月12日の経済財政諮問会議での黒田東彦総裁のオフレコ発言が波紋を広げている。同会議の議事録から削除された黒田総裁の発言が徐々に明らかになるにつれ、その衝撃の大きさに経済界も驚きを隠せないでいる。「ここからはセンシティブな話なので、外に出さないように議事録から外してもらいたい」と前置きしてから黒田総裁はこう語ったという。
「欧州の一部は日本国債を保有する比率を恒久的に引き下げることにした」
 昨年秋、2015年10月に予定されていた10%への消費増税の先送りを安倍首相が決めたのを受け、日本国債の格付けが引き下げられた。欧州の一部は日本国債の保有はリスクが高いと判断して比率引き下げに動いたが、それにしても「保有比率を恒久的に引き下げる」というのは衝撃的だ。
 黒田総裁はさらに、「これからお話しすることはもう少し深刻だ。実はドイツ、米国、英国などが強硬に、銀行が自国の国債を持つことについても資本を積むべきだと主張している」と、国際会議の舞台裏を明らかにしたうえで、こう語った。
「とんでもない話。日本やイタリアが反対しているため、簡単には合意に至らないと思うが、ドイツや米国が自国でそういった規制を導入する可能性がある」
 日本はいまやGDP(国内総生産)の2倍を超す国債を発行している。イタリアもGDPとほぼ同額の国債発行残高を抱えている。そして、その国債の大半を保有しているのは自国の銀行にほかならない。そんな状況で、「国債はリスクがあるので銀行は相応の資本を積まなければならない」となったら、一体どうなるのか。
 銀行が国債の売却に動く可能性は高く、そうなれば金利は急騰しかねない。どうにか均衡を保っている日本やイタリアの財政は破綻の淵に立たされるだろう。安倍首相が目指すプライマリーバランスの黒字化や財政赤字の半減などの財政再建への道は一瞬のうちに瓦解する。
 黒田総裁のオフレコ発言は、単に消費増税を急ぐべきだという財務省寄りの発言という以上に、すぐそこにある日本の危機を映し出している。
(後略)

 

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