東日本大震災から4年が経過、思うように進まない復興に被災者の不満が燻るなか、復興事業に携わる一部業者に対する仙台国税局の調査に注目が集まっている。
仙台国税局は「復興予算の闇」に切り込めるのか。
きっかけは昨年晩夏にもたらされたタレコミだった。
同国税局が入る合同庁舎のすぐ隣、勾当台公園のヒマラヤシーダー(ヒマラヤスギ)に太陽が容赦なく照りつける昼下がりに、1本の電話が総務課に回されてきた。
「名前や立場はいえないが」
嗄れ声でそう切り出したのは中年と思しき男性。関係者によると、男は次のようなことを口にしたという。
「復興予算がスーパーゼネコンに環流している。復興の工事をしているように見せかけ、実際は現場で何も進んでいない地域があちこちにある。それでも復興予算はつく。スーパーゼネコンが下請けに工事を発注したことにして、予算への計上を申請するからだ。下請けはほんのちょっとのおこぼれをもらうきりで、仕事をしたことにさせられる。復興がちっとも進まないのは、そのためだ」
(中略)
一説では、この復興予算がGDPを嵩上げしているとの指摘もあるが、この混沌とした状況を踏まえたうえで、仙台国税局にもたらされたというタレコミに耳を傾けてみよう。関係者によると、電話の主は次のように話したという。
「スーパーゼネコンX社の下請けの一つにN建設という埼玉県に本社をおく会社がある。本社は埼玉だが、心配しなさんな。そのN建設は復興予算を環流させるためのダミーとして仙台にA社を置いている(親会社は埼玉県にあってもダミー会社が仙台だから徴収対象だという意味。国税局は警察以上に縄張り意識が強い)。復興工事の代金はN建設からそのA社に回り、A社から東北の地元業社に、やりもしない仕事と一緒に流れている」
N建設は産廃事業を主に手掛けている。大手ではないが中堅として業界内ではそこそこ名前は知られているようだ。スーパーゼネコンX社の下請けとして復興予算に与るため、仙台に子会社を設立。それがA社で、A社の代表にはN建設代表の長女が就いている。
タレコミの内容を続けよう。
「N建設からA社、そして地元の会社へとカネが流れるわけだが、ここからおかしな話になる。地元の各業社に流れたカネが、A社やN建設に手渡しで戻されるんだ。振り込まれた金額から5%くらい抜いてね。地元業社は仕事などしてないから、少額しか抜けなくても文句は言わない。ここで重要なのは、仕事をしたという架空の実績だけは地元業者からA社、N建設社、そしてスーパーゼネコンに上げられること。その際の報告内容は、復興だから常に“進行中”でいい。そこはなんとでもなる。工事の具体的内容はスーパーゼネコンの間でコンペティションがおこなわれ、それに基づいてN建設→A社→地元業者に伝えられるから、いい加減なものではない。実際に工事をする場所も明確だ。その明確さが重要なポイントになる」
地元業者が手戻ししたカネは、A社→N建設→スーパーゼネコンX社へと、やはり少しずつ抜かれながら還流する。
「皆が潤う。誰もが裏切らない鉄壁のシステムだ。ただし、国税局の職員さんたちもご存じのように、復興事業は一向に進んでいない」
そして男は具体的な一例を、固有名詞と数字とあげながら、聞き手が正確にメモをとれるよう、ゆっくり口にしたという。
このタレコミから2カ月半後、仙台市若林区にあるA社を二人の国税局員が訪れている。二人とも肩書きは特別調査情報官。朝9時前のことである。
(後略)