記事(一部抜粋):2015年4月号掲載

経 済

銀行の「異業種参入」が解禁へ

地域金融機関救済の切り札に

 金融庁がいよいよ銀行の異業種参入に道を拓く。銀行持株会社のあり方を見直し、持株会社傘下で多様な新事業に進出できるようにするため、金融審議会に有識者による会議を設け議論する。銀行法が定める「銀行の他業禁止」に風穴が開き、金融行政の大転換となる。
 超低金利が継続するなか、銀行は従来の預金・貸出を中心とする伝統的なビジネスモデルでは利鞘が稼げなくなっている。いわば構造不況業種に陥っているようなもの。とくに人口の減少が著しい地方の地域金融機関では深刻な問題になっている。
 その地域金融機関を救済する手立てが「異業種参入」だ。銀行持株会社形式で新事業に参入させ、新たな収益チャネルを生みだそうという思惑である。それはまた地域金融機関の銀行持株会社形式による再編・統合を後押しすることにもつながる。
「人口減より、流通業界など異業種の銀行業参入のほうが脅威です。銀行は規制で本体業務に関連したクレジットカードやリースの会社しか持てないが、銀行業に参入してくる異業種企業は小売りや住宅、冠婚葬祭など多岐にわたる。顧客の購入履歴などビッグデータを活用されたら、金融機関などあっという間にやられてしまう」
 関東地方のある地銀幹部は、地域金融機関が置かれた窮状をこう吐露する。異業種企業が銀行業に参入するのは自由なのに、銀行が多様な事業を展開するのは法規制があってできないのは不公平。これでは競争力など維持できないというのだ。
「もはや銀行が経済を支配する時代ではありません。企業との関係も様変わりしており、かつてのような優越的な地位にはない」(同)
 戦前のような財閥が再びできるのを防ぐために、戦後、独占禁止法によって持株会社の設立は禁止されてきたが、1997年の法改正で解禁され、98年には銀行法などの改正で銀行持株会社の設立も解禁された。
 しかし、銀行持株会社の解禁目的が、不良債権処理を促進するために銀行の再編を促す受け皿という限定的な措置だったため、その後も銀行が銀行持株会社の傘下子会社として持てるのは銀行や証券会社、保険会社、リース会社、クレジットカード会社など銀行業に関連した事業、もしくは社員食堂のような従属業務に限定されてきた。
 これは銀行の経済支配力が依然として強いことに加え、リスク管理が不十分なまま銀行が異業種に参入すれば、銀行の健全性が失われる可能性があるからだ。預金を不特定多数の顧客から集める銀行には一定の制限が必要という考えが根底にある。
 反面、銀行業は異業種からいいように侵食されている。ある東海地区の地銀幹部がこう指摘する。
「Suicaのような新しい決済手段も普及し、事業会社の銀行参入が当たり前なのに、我々は異業種に出ていけない。異業種との提携も検討しています」
 IT技術と金融はもともと互いに親和性の高い領域だが、近年、コンビニエンスストアでの公共料金の支払いが24時間365日、納付書のバーコード読み取りと現金支払いで瞬時に終えることができるなど、銀行の本来業務である「決済業務」が他業態に浸食されている。
 とくにここにきてEコマース(電子商取引)が社会に広く浸透するなか、商流と決済を一体化したサービスが急速に伸びてきており、業務制限のある銀行は置いてきぼりを食らっている状況にある。
 楽天のネット通販「楽天市場」の年間取扱高は2兆円を超え、若者に圧倒的な支持を得ている無料通話・無料メールアプリを提供するLINE(ライン)も昨年12月に電子送金・決済サービスを開始した。
 こうした流れは日本だけにとどまらない。米国のペイパルや中国のアリババ集団など、銀行以外の事業会社による決済サービスがその典型だ。2014年の世界の電子決済金額は200兆円を超えたとの試算もある。
(後略)

 

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