(前略)
GPIFがボラタリティの高い株式のウェイトを高めるのは、世界の常識からみて危険な賭けともいえるが、リスク資産にシフトしているのはGPIFだけではない。国家公務員共済などの年金も追随する動きとなっている。
背景には社会保障改革がある。社会保障・税一体改革のなか、12年8月に被用者年金一元化法が成立。それによって15年10月から、厚生年金に国家公務員、地方公務員と私学教職員が加入することになった。つまり厚生年金、国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済が一元化されるのだ。
国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済それぞれの積立金はそれぞれ約8兆円、約18兆円、約4兆円。年金一元化によってそれぞれの積立金の半額程度が厚生年金の共通財源となり、厚生年金と国民年金の積立金120兆円と合算されて管理される。
その運用については、厚生労働大臣、財務大臣、総務大臣、文部科学大臣が共同で「基本指針」を策定するとされている。厚生年金が厚労省、国家公務員共済が財務省、地方公務員共済が総務省、私学共済が文科省の所管なので、4大臣が共同で指針を定めるということだ。一元化というものの、あくまでも縦割りなのである。
その「基本指針」に基づいて、GPIF、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、私学事業団が各自、運用主体のポートフォリオを定めるに当たって参酌すべき資産構成の目標(モデルポートフォリオ)を策定する。ここでも縦割りは堅持されているわけだが、前述したように、運用の「基本指針」は4大臣の下で決まる。結果として、国家公務員共済連合会、地方公務員共済連合会、私学事業団とも、GPIFと同じようなポートフォリオに変更するわけだ。
年金一元化といいながら、各省がそれぞれの積立金を一種の「利権」と考え、必死で守ろうしているのがわかるだろう。民間の会社であれば、そこまで各部署が資金を抱えるということは考えられず、財務関係部門で一元管理するが、役所はそうではなく、あくまで各省が独立した会社のようになっているのだ。
運用方針が同じなら、いっそのこと、それぞれの組織が統合すれば効率も上がろうというものだが、それは役人の論理としてありえない。というのは、国家公務員共済連合会、地方公務員共済連合会、私学事業団は、それぞれ財務省、総務省、文科省の有力な天下り先になっているからだ。
かつてはGPIFも厚労省の天下り先だったが、いまでは運用の素人の厚労官僚に出る幕はない。第三者からするとその点ではGPIFのほうが、まだまともに見えるが、役人は天下り先の確保が最優先なので、GPIFと組織統合するなんてとんでもないと思っているわけだ。
とはいえ、今回の運用方針の同一化によって、いずれ厚労省のように天下り先が失われていくだろうと、財務省、総務省、文科省の官僚も覚悟はしているかもしれない。ただ、できるだけそうなるのを引き延ばそうとは考えているはずである。
(後略)