記事(一部抜粋):2015年2月号掲載

政 治

補正3兆円は少なすぎる、必要なのは「10兆円対策」

【霞が関コンフィデンシャル】

 2015年度の政府予算案に関して、相変わらず政府を家計にたとえるかたちの報道が目につく。
 たしかに大量の予算資料を読み解くのは難しい。とりわけ、数字の羅列である予算案の原典資料は読めたものではない。実は、財務省のキャリア官僚でも、原典資料の予算書だけで予算を説明しろと言われたら、できない人もいる。もちろん予算に関する知識があるので、マスコミの記者に対してレクチャーすることはできる。
 記者は原典資料をもらっても読めない。そのため予算案が閣議決定される直前に、原典資料ではなく予算の内容を簡単にまとめた「アンチョコ資料」が各マスコミに配られる。しかし、そのアンチョコ資料ですら読めない記者がいる。官僚からレクを受けながら、どうにか記事が書かれているというのが実態だ。
 このため、記事は各社とも似たような内容になる。政府を家計にたとえる記事が多いのは、アンチョコ資料でそう説明されているからだ。そのたとえが正しければいいのだが、実は、政府を家計に例えるのは必ずしも正しいとはいえない。
 経済主体は、家計、企業、政府の3つに大きく分けられる。このうち家計は貯蓄が主体、企業は借入が主体というのが基本形だ。
 このため家計の借入は多くない。政府は家計より企業に似ている。政府を家計にたとえてしまうと、政府の借入も悪という話になる。しかも、政府の持つ巨額の資産が考慮されないで、負債である借入のみが悪者にされる。そして、「借金が多いので財政再建。そして増税」というお決まりのパターンが繰り返される。
 15年度の政府予算案は総額96兆3420億円。歳入の内訳を見ると、税収が54兆5250億円、その他収入が4兆9540億円、公債金が36兆円8630億円だ。
 これを1兆円を10万円に置き換えて家計にたとえると、家の支出は963万円で、お父さんの収入が545万円、お母さんの収入50万円、借金369万円となる。1年間でこんなに借金する家計はまずないので、国民は「政府はこんなに借金をしてるのか」と必要以上に驚くことになるわけだ。
(中略)
 さらに問題なのは、15年度予算と一体となっている14年度補正予算である。補正予算は昨年末の12月27日に閣議決定されたが、総額はわずか3.1兆円である。
 ここで現下の経済状況を考えてみよう。14年の初めまで好調だった景気は、同年4月の消費増税(5%→8%)をきっかけに落ち込んだ。現時点でGDPギャップは15兆円程度である。セオリーとしては、金融緩和と追加的な財政支出を実施してGDPギャップを一刻も早く解消すべきだ。
 違う角度から言えば、アベノミクス以前、つまり安倍政権がスタートした2年前の12年12月の時点に戻ったのだから、その時に何をやったのかを思い出せばいい。当時やったのは日銀総裁人事と13年初めの10兆円規模の大型補正。今やるべきことも、それと一緒だ。
(中略)
 財源は心配ない。前号でも指摘したように、円安によって外国為替資金特別会計(外為特会)に10~20兆円程度の含み益が出ているからだ。
 それを活用すれば、財政再建目標を気にせずに、景気対策を打ち出すことができるはずだ。政府が円安メリットを貯め込む一方で、中小企業や庶民が円安のデメリットに苦しんでいるというのでは筋が通らない。安倍首相も、アベノミクスの恩恵を国民全体に行き渡らせると、選挙中に話していたではないか。
 家計にたとえるのがいいとは思わないが、あえて言おう。
 お父さんの収入545万円、お母さんの収入50万円というが、実はそのほかに、お母さんがお父さんに内緒で財テクに励んでいて、この間の円安で200万円も儲かっていた。しかし、知らぬはお父さんだけ。お母さんだけがほくそ笑んでいる。その200万円はどこにいったのか、という話だ。
(後略)

 

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