記事(一部抜粋):2015年1月号掲載

政 治

円安で含み益が拡大した「外為特会」を活用せよ

【霞が関コンフィデンシャル】

 衆院選は当初の予想通り与党の自民・公明が圧勝した。
 まず、なぜ今回解散したのか忘れている読者もいるだろうから、あらためて振り返っておこう。
 いまでは、2015年10月に予定されていた消費税の再増税は延期するのが当然になっている。選挙戦では争点にすらならなかった。 しかし、たった1カ月半前までは、再増税は「既定路線」で、解散は「あり得ないこと」だった。
 安倍晋三首相は、財務省から「善意のご説明」があったことを選挙期間中に明らかにした。財務省の「ご説明」は国会議員や地方議員、首長、マスコミ、経済界などに対してもおこなわれたが、狡猾なのは、そのご説明に、消費増税に伴う利権を織り込んだことだ。消費増税すれば予算がふえる、軽減税率を与える、法人税を減税する……。
(中略)
 安倍首相は、こうした財務省のご説明を解散で吹き飛ばした。
 もし、安倍首相が衆院を解散しないまま消費増税の凍結法案を準備していたら、財務省が自民党の増税派や民主党に根回しし、“政局”になっていただろう。安倍政権が倒れれば、アベノミクスは終わり、増税路線を突き進んでいたはずだ。
 今年4月の8%への消費増税で、日本経済はデフレに逆戻り寸前となった。15年10月からの10%への消費増税で2発目の爆弾を食らっていたら、日本経済は本当に沈没していただろう。
 2発目は辛うじて食らわなかったが、1発目の爆弾の影響は大きく、増税なしの場合と比べると15兆円ほどのGDPが吹っ飛んでしまった。圧勝した安倍政権がまずおこなうべきは、この失ったGDPを取り戻す補正予算と、来年度予算の編成である。これがうまくできないと、景気の回復が遅れて15年春の統一地方選に影響が出る。
 財務省としては、消費増税ができさえすれば政権が潰れても一向に構わない。3%から5%への増税を決めた村山富市政権、それを実行した橋本龍太郎政権、そして5%から10%への増税を決めた野田政権が好例だ。
 安倍政権は、5%から8%は予定通り実施したが、10%への再増税はすんでのところで踏みとどまった。その意味で、初めて財務省の言いなりにならなかった政権と言える。そして総選挙で安倍政権は勝利し、最強官庁の財務省は敗北を喫した。
 民主主義の建前の下では、選挙で選ばれた政治家が官僚の上に立つ。ただし、財務省だけは別格だ。
 その財務省がこれからどう出てくるのか。最初の試金石は、12月26日の緊急経済対策、15年1月9日の補正予算案である。
 緊急経済対策は、低所得者向けの現金給付やガソリン・灯油購入費の助成、子育て世代の家計支援、急速な円安に伴う燃料・原材料高に苦しむ中小企業の資金繰り支援、エコポイントの復活も含めた住宅購入促進策、学校や橋の耐震化・災害対策、「地方創生」などで3兆円規模と言われている。
 ただし、この程度の補正予算の数字では、景気回復には力不足だ。消費増税したために経済成長が落ち込み、現在GDPギャップは15兆円もある。3兆円程度の補正予算ではそのギャップを埋めきれない。
 今の段階で、景気対策のための財政支出を惜しんではいけない。政府は15年度のプライマリーバランスの赤字半減、20年度の均衡化達成という目標を掲げているが、心配することはない。財政再建に必要なのは、増税ではなく増収だから、経済成長するほうが財政再建はうまくいく。
 別に国債発行に頼ることもない。いわゆる埋蔵金を活用すればいい。アベノミクスによる円安で含み益が10兆円以上あると思われる外為特会(外国為替資金特別会計)を活用するのだ。もちろん、外為資金百数十兆円すべてが埋蔵金というわけではない。活用するのはあくまで含み益の部分である。
(後略)

 

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