記事(一部抜粋):2014年12月号掲載

経 済

FRBにババをつかまされた黒田バスーカ2とGPIF

【証券マン・オフレコ座談会】

B 10月末に発表された日銀の追加金融緩和(QE)と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による株式運用比率の引き上げによって、日経平均が2007年以来、1万7000円の大台を回復した。
(中略)
C 方法はともかく、株価指数に連動する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J─REIT)の買い上げを3倍に増やし、同時にGPIFの株式の運用比率を高める新しい基本ポートフォリオを発表したものだから、インパクトは大きかった。
A これは米連邦準備理事会(FRB)の二番煎じ。中央銀行が資金をジャブジャブにして国債価格を上げ、さらには株価と不動産価格を強引に上げることで、景気回復とデフレ脱却をしようという政策だ。ただ、FRBの場合はリーマンショックの後だったから、「非常事態を乗り越えるため」という大義名分があった。
B 今回の追加QEについて日銀は、「日本経済をデフレから救うため」と言っているよ。商品が売れなくなって値下がりし、それが製造業などの賃金低下や購買力の低下となって、さらに商品が売れなくなるというデフレスパイラルを防ぐためだと……。
C それはどうだろう。冷徹に今回の追加QEを分析すると、新しいGPIF基本ポートフォリオによって日本株と海外の株式・債券の買い余力は増えるものの、日本国債は大量に売ることになるから、それを日銀が肩代わりするということだろう。その分が30兆円なのでは?
B Aさんは前回、GPIFの運用比率見直しの本当の目的は、日本株の買い増しというより、米国債の買い支えでは、と言っていたよね。
A そう。黒田日銀総裁は「FRBのQEを引き継いだわけではない」と言っているようだけど、金融をまともに分析すれば、「そうではない」ことくらいはわかる。FRBはいつまでも湯水のごとくQEは続けられないから、終了時期を模索していた。その終了時期と今回の日銀の再QEは見事に一致する。
C 米政府はリーマンショックを乗り切るために、FRBを使って米国債(長期国債)と住宅ローン担保証券(MBS)を、多い時で月額850億ドル買い入れてきた。そのせいで現在、FRBの資産規模は4.5兆ドルと、リーマンショック前の約5倍に膨れ上がってしまった。
B となると、FRBの資産を正常化するには、その買い入れた米国債とMBSを市場で売っていく必要があると?
C ただ、金額が金額だけに、まともに市場に売り出すと価格が急落して金利が急上昇してしまう。
A そこへタイミングよく、GPIFが買い手として登場してきた。
B ちょっと待ってよ。米国債ならまだしも、サブプライムローン問題の原因となったMBSに日本の年金が投資するのはまずいんじゃないの?
C といっても、安倍政権は積極的な投資(リスク)を推奨しているし、GPIFの運用見直しで外国株と外国債券の枠を拡大したわけだから、買う可能性は高いと思うよ。それよりさっきの話に戻るけど、異次元の金融緩和は安倍政権と黒田日銀の合作なわけだから、デフレ対策を理由にするなら、政府はデフレの原因となる環太平洋経済連携協定(TPP)や経済特区、それに新サービス貿易協定(TiSA)を推進するのは止めたほうがいい。
B TiSAって?
A TPPはモノに関する貿易協定だけど、TiSAはサービスの貿易協定で、実は外務省の資料によると、TPPよりTiSAのほうが規模は遥かに大きい。サービス業はGDPの74.5%、雇用の70.2%を占める。
B そんな話は初めて聞いたけど。
C TPP以上に秘密主義だからね。日本の窓口は外務省だけど、あまり公開しないから、ほとんどの国民は知らないはず。TPPの参加国は12カ国で、TiSAはEUを含めると48カ国にもなる。
A 表はTPPで交渉がなかなか進んでいないように見せかけておいて、裏ではそれより規模の大きなTiSAの交渉が、秘密裏に進んでいるということ。
B TPPについては農業が槍玉に挙がったけど、TiSAの場合のターゲットはどこなの?
C 国や地方自治体がおこなう「公共関連事業」がターゲットだろうと言われている。なにしろ、日本の政府調達の規模は35兆円で、そのうちWTOの対象となるものが約10兆円、非対象案件が約25兆円らしい。
(後略)

 

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