(前略)
ところで、日本の成長率が大幅にダウンする見通しになったことを、メディアはどう伝えたのだろう。比較してみるとおもしろいことが分かる。たとえば同じ「ロイター」の記事でも、東京発の記事とワシントン発の記事の内容が微妙に異なっているのだ。
東京発ロイターはこう記す。
《(IMFは)2015年10月に予定される10%への消費税率引き上げについては、予定通り実施するべきとの見解を示した。IMFは「非常に高水準な公的債務を踏まえると、財政規律を確保するために消費再増税の実施は極めて重要だ。ただ、消費再増税は内需に打撃を与える可能性が高く、景気への信頼感と投資の回復が必要となる」と指摘した》(10月7日)
この記事は、「消費増税を予定通り実施するべき」といいながら、「実施した場合は内需に打撃を与える」と矛盾する2つの内容を書いている。
実はIMFが公表した報告書には、後段の「実施した場合は内需に打撃を与える」の部分は書かれているが、前段の「消費増税を予定通り実施するべき」という記述は見当たらない。
またIMFの報告書を読むと、ほかにも日本の消費増税に言及している部分がある。要約文には《消費税引き上げによってもたらされた国内消費の減少は予想以上に大きかった》とあり、本文中にも《予想以上に大きかった第2四半期のGDPの落ち込みにより、2014年の日本の成長率は4月のIMFの世界経済見通しより0・5%低い0・9%と予測している》という記述がある。
ちなみに、ワシントン発ロイター記事は、あくまで、IMFがユーロと日本の低成長を懸念するという主旨である。日本の低成長を懸念しているIMFが、日本は消費増税を予定通り実施するべきと報告書に書くはずはない。
では、なぜ東京発の記事には「日本は消費増税を予定通り実施するべき」と、IMFの報告書にはなかった内容が書かれているのか。
おそらく、ロイターの東京支局の記者が、IMF(あるいは財務省)に取材して、当該コメントを引き出したからだ。
IMFには4人の副専務理事がいるが、その1人は日本の財務省の財務官OBである。日本はIMFでは第2位の出資国であり、副専務理事のポストを確保しているだけでなく、理事や多くの出向職員を財務省から送り込んでいる。日本のマスコミには財務省OBや出向者がIMFの資料を要約して説明するため、書かれる記事には財務省の意向が入りやすい。もちろんIMFとしても、加盟国である日本(事実上財務省)が主張する内容を否定するはずもない。
(中略)
財務省のいいなりのIMFは頼りないが、米財務長官のジェイコブ・ルー氏は、財務省にとっては煙たいだろうが日本経済にとっては頼もしい存在だ。
ルー長官は、ルービン、ポールソン、ガイトナーと続いてきたウォール街の「大物」ではなく、どちらかといえば地味な人物だ。そのルー長官、講演で「強いドルは米国にとっていいことだ」と語ったという。実際、最近の動きをみると、米国は「強いドル」を許容しているように見える。
ルー長官のドル高容認はイコール円安容認である。
円安になれば輸出が増え、あるいは輸出が増えなくても海外投資収益の円建ては増えるので、いずれにしても輸出関連企業にとっては恵みの雨だ。
以前は日銀の金融引き締め政策で円が稀少になり、長いこと円高が続いたが、その後、日銀が金融緩和に転じたことで、円高が著しく是正された。それでも今の水準はやっとリーマン・ショック前に戻ったくらいだ。円安は輸入企業にはきついが、世界の先端で頑張っている輸出企業を押したほうが、日本経済全体にとっては好ましい。円安のほうが日本経済の調子はいいのだ。
韓国の朴槿惠大統領などが円安に対して異例の批判をぶっているなか、ルー財務長官の発言は頼もしい限りだ。しかもルー長官は「日本は緊縮財政を考え直したほうがいい」とも言っている。米財務長官の日本側のカウンターパートは財務大臣だ。麻生太郎大臣が消費増税に意欲を見せているところでのルー発言は、米国からの強烈な一発だ。
麻生財務大臣は「増税しないと国債金利が暴騰する」「増税は国際公約」と必死で財務省の意向を代弁しているが、ルー長官の発言は、麻生大臣の一連の発言がデタラメだといっているようなものである。
(後略)