《消費税率を8%に据え置いた場合、子育て支援の財源7000億円に対し、3000億円程度の不足が2015年度に生じることが厚生労働省の試算で14日、判明した》との記事が、9月15日付の新聞各紙に掲載された。
記事を読んで、「やはり消費増税は必要なのか」と思った人もいるかもしれない。しかし、ここで勘違いしていけないのは、消費税は特定財源ではないので、増税しないと自動的に予算が減額されるという仕組みにはなっていないということだ。しかも今は予算の査定中である。つまり、この記事は「現段階で予算がつかないなんてバカをいうなよ!」とツッコミを入れなければならない類の与太話。子育て支援を人質にした“増税恫喝”だ。
すでに締め切った来年度予算の概算要求は消費増税を織り込んでいるため、今後もこの種の「消費増税が見送られたら大混乱するぞ!」という脅し文句が次々と繰り出されるだろう。
消費増税が見送りになれば世の中はハッピーなのに、こうした増税恫喝が罷り通っているのは、それだけ“増税利権”に群がる人がたくさんいるからだ。
それでは、仮に消費増税が見送りになったら、増税利権派はどうなるのだろう。
まず、今回の党人事・内閣改造を受けて増税キャンペーンを本格化させた財務省の努力が、残念ながら無に帰すことになる。それだけではない。財務省の予算をばらまこうと手ぐすねをひいていた議員も当てが外れる。特に民主党政権時代に長い間冷飯を食っていた自民党議員は、消費増税を今か今かと待ち焦がれている。今年度の予算は大盤振る舞いだったので、それなりに息をつけたが、野党時代の3年半で失った分はまだ取り戻していない。
財務省の増税キャンペーンはマスコミや有識者も動員するため、彼らは梯子を外される格好となり、その後の言論活動にも支障が出かねない。特に、財務省御用達といわれる学者やエコノミストは甚大な影響を受ける。というのも、マスコミは彼らを財務省御用達という理由で使っているので、同省の見解をいち早く国民に伝えるという役目が果たせなくなれば、使う意味がなくなってしまうからだ。これは、彼らにとって死活問題だ。
梯子を外されるという意味では日銀も同じだ。黒田東彦総裁は「2%のインフレ目標の達成は消費税率の10%への引き上げが前提」と言っている。消費増税が見送られれば金融引き締めに回らざるを得ず、それは目先の株価や経済に不測の影響を与えかねない。
各省庁の予算担当者も思わぬ余波を受ける。消費増税を前提として予算を要求しているので、それが見送りとなれば、年末の忙しい時期に予算編成のやり直しをしなければならなくなる。「消費増税を見込む」とは「予算要求は気前よくやっていい」の意味だというのが霞が関の暗黙の了解なので、それをご破算にされれば大騒ぎになるだろう。
地方自治体も割を食う。今回の内閣改造で地方創生大臣なるポストが新設され、地方へのバラマキがあるという期待が高まっている。しかし増税がなければ、バラマキもストップするだろう。そうなると地方創生大臣に就任した石破茂氏の仕事がなくなる。いったん矛を収めた石破氏が再び暴れ出すかもしれず、自民党内の混乱は必至だろう。
法人税減税を政府に求めている経済界も当てが外れる。政府は消費増税と法人減税をセットで検討しているため、消費増税がなければ法人減税も見送られるからだ。
新聞業界も消費増税がスキップされると大変だ。新聞業界は軽減税率に賛成し、新聞料金への適用を財務省に求めている。これは消費増税を前提にした話だ。財務省もしたたかで、今のところは軽減税率には難色を示している。だから消費増税がなくなれば、新聞料金に対する軽減税率の適用も自動的に消滅する。ただでさえ販売部数が減少して苦しんでいる新聞業界はさらに経営が難しくなる。
このように、消費増税が見送られると、それを当てにしていた人たちの間に激震が走る。問題は、そうした関係者があまりに多く、しかも彼らがそれぞれの分野で実権を持っているということだ。
(後略)