記事(一部抜粋):2014年9月号掲載

連 載

【新ニッポン論】田中康夫

「基礎自治体」

「基礎自治体」と呼ばれる市町村は現在、787市・748町・184村の計1719。僕が長野県知事に就任した平成12年段階の671市・1991町・567村、計3229から激減しています。11県には村が存在せず。それが“平成の大合併”なる御旗の下に、合併特例債と称するハコモノ行政推進のアメと、三位一体改革と称する地方交付税大幅削減のムチを振りかざした「成果」です。
 因みに合併特例債は「旧市町村間相互の道路、橋梁等の整備」「住民が集う運動公園等の整備」「合併後の市町村の均衡ある発展に資するために行う公共的施設の整備」が対象事業。介護や保育の充実に象徴される脱ハコモノ発想の施策には“流用”不可でした。
 斯くなるアメとムチは、起債償還時に巨額の後年度負担をもたらし、全国津々浦々の集落や街並みを疲弊させるのみ。徒に合併せずとも一部事務組合の機能拡充で十分対応可能と全国知事会で反対したのは、「原発政策」に懐疑的と見做されて「冤罪」に程なく巻き込まれた福島県の佐藤栄佐久知事と不肖ヤッシーだけでした。
 日本の約半分、人口6500万人のフランスには自治体=コミューンが3万6500余も存在します。パリに次いで第2位で世田谷区と同規模な人口83万人のマルセイユも、チーズで名高い人口200人のカマンベールも同格。アメリカとて、住民の手で設立され州憲法に定める手続きを経て承認された自治体が8万4000余も存在。規模拡大へ盲進し、今や骨粗鬆症状態な日本の“羊頭狗肉”な地域主権とは大違いです。
「若者が地方から東京圏に一極集中する人口移動が続けば2040年には523もの市町村が消滅」と旧建設官僚で元岩手県知事の増田寛也氏が主宰する「日本創生会議」が、「極点社会」の危機を喧伝しています。
 問題はその“認識”の先です。「コンパクトシティ」を地方都市に出現させて人口流出を防ぐとの言説は、“平成の大合併”の失敗から何も学ばぬ悲喜劇。件の「ストップ少子化・地方元気戦略」に、豈図らんや中央集権の司令塔たる霞が関の各省庁が賛同するのも、「地域拠点都市」への集中投資という平成の「列島改造」ハコモノ行政と“共振”しているからです。
 現在1.4の合計特殊出生率を、2025年に欧州平均1.6より高い1.8に、2035年には2.0と欧州トップのフランスより高い2.1に、と無謀なる到達目標を掲げます。当連載13回目で慨歎した、「年間20万人の移民受け入れで100年後も人口1億人台維持」を掲げる政府の経済財政諮問会議とも“連動”。即ち100年後には人口の半数以上が「日本人」ならぬ「渡来人」。欧米同様、首相も首長も例外に非ず。
「国柄」を尊び「日本を、取り戻す。」面々が、「日本列島は日本人だけのものではない」と鳩山由紀夫氏が呟いて指弾された「日本を、取り壊す。」施策に猪突猛進の奇っ怪ジャパン。“量の維持から質の充実”へと発想転換を図り、フランスやイタリアと同規模の人口6000万人台で持続可能な日本を目指す施策であるべき。
「地方企業の法人税率を東京より優遇し、企業の地方移転を促す」との自民党が纏めた人口減少対策案も隔靴掻痒。本社登記地で法人税を全額納付する現行税制を改めねば、各地の自治体が工場誘致を実現しても、微々たる固定資産税と多少の雇用が見込めるだけ。であればこそ連載6回目で提唱した、各事業所での事業規模や活動量を基準に所在地毎に課税する外形標準課税の全面導入こそ、真の地方への分散・分権なのです。
 とまれ嗚呼、富国裕民の石橋湛山も後藤新平も田中正造も存在せぬニッポンは何処へ。

 

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