かつては大っぴらにおこなわれていた私立大学の裏口入学。コンプライアンスがうるさく言われるようになった昨今は滅多に耳にしなくなり、表沙汰になるのも、カネだけ取って知らんぷりの裏口入学詐欺ばかり、と思っていたらさにあらず。医者不足が再び囁かれ出した数年前から、医学部への裏口入学が増えているという。
首都圏にある私立X大学。その医学部への入学を希望する受験生の父兄が、裏口入学を依頼した相手のトラブルとなり、双方が警察に被害届を出す騒動へと発展したケースがある。現在の裏口入学事情が垣間みれるので、その概要を紹介しよう。
トラブルになったのは、依頼者が多額の資金をX大学関係者に支払ったにもかかわらず、肝心の受験生が試験に合格できず、入学もできなかったため(合格していればトラブルになるはずがない)。依頼者がX大学関係者に「どういうことだ」と詰め寄ったところ、売り言葉に買い言葉、しまいには暴力団関係者が乗り出す騒動へと発展したという。
被害届を受けた警察関係者がいう。
「依頼者の言い分は、『合格できなかったんだからカネを返せと当然の要求をした。そうしたら暴力団が脅しに来た』。だから被害届を出したんだと。一方のX大学関係者の言い分はこう。『依頼者が勝手にカネを持参してきた。こちらからカネは要求していない。そもそも受験者(依頼者の実子)の学力が足りないから入学に至らなかった。今の時代はカネだけでどうにかなるものではない。裏口で医学部に入っても、その先には難しい国家試験が待ち構えている。基礎的な学力のない生徒では裏口入学すらできない時代になっていることを依頼者はちっとも理解していない。こちらはできうる限りの手は打った。その実証もできる。にもかかわらず、依頼者はこともあろうに暴力団関係者を伴ってカネを返せと迫ってきた。今どき暴力団を使って脅しに来るなんて、いつの時代の人間なのか』と」
まさに泥仕合だが、こうして双方が被害届を出し合うなかで、最近の裏口入学のトレンドのようなものが分かってきたと、警察関係者が感心しながら言う。
「本件が事件になるかどうかは分からないが、興味深いのは裏口入学のやり方だ。裏口入学というとその大学の実力者にカネを渡せば試験の成績に関係なく合格させてもらえるものかと思っていたが、そう単純なものではないんだね」
ここに、本件の当事者が作成した「資料」がある。依頼者が支払ったカネの明細だといい、そこには次のような記述がある。
・X大学への入金 合計4000万円
・交通費 5万5800円
・講師代 160万円
・講師ホテル代 14万円
(後略)