国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課は7月10日、その前日夕刻に「長野県南木曽町で発生した土砂災害に対する専門家派遣について」をプレスリリース。同省「国土技術政策総合研究所及び独立行政法人土木研究所の土砂災害に関する専門家による現地調査を行います」と記しました。
而して「砂防研究室長らが10日午後、町役場で報道各社の取材に応じ、土石流が起きた梨子沢の上流3カ所の砂防ダムが土砂で埋まっている事を明らかにした」「室長らによると、梨子沢の上流には2つの支流がある。砂防ダムは支流にそれぞれ1カ所と2カ所あるが、いずれも土砂等で満杯だった。土石流は各砂防ダムを乗り越えて合流し、梨子沢を下ったとみられる」と報じられました。
が、件の「官製発表」には、敢えて“曖昧”にしている部分があります。3つの砂防ダムは、今回の「ゲリラ豪雨」発生以前に既に土砂で満杯だった蓋然性が極めて高い厳然たる事実を、です。
「山地・渓流から下流の河川への土砂・岩石の急激な流下を防止する為に設ける」と『大辞林』が記す、砂防堰堤とも呼ばれる砂防ダム。不可解な事には、竣工後に溜まった土砂の浚渫・除去は全国津々浦々、未だ嘗て実施された事例が存在しません。「放置」し続け、土砂が満杯となるや上下流に新たな砂防ダムを新設する。それが日本の「砂防工学」なのです。
知事就任当初、旧建設省から出向の土木部長と砂防課長がガラス張り知事室で述べた「更に県下に7千カ所、砂防ダムを建設せねばなりません」の科白を想起します。が、僕の就任以前から建設箇所は1年間に100カ所以下。他方でコンクリートの耐用年数は60年とも。計画完遂時には既存の砂防ダムを造り替えねばなりません。
「本当に全て必要な箇所ですか。それとも“永遠の公共事業”確保ですか。既存施設の堆砂の浚渫こそ先決では」。尋ねると二人は口籠もり、顔を見合わせました。
2001年2月20日に発した「『脱ダム』宣言」は、ダムを造る・造らないの不毛な○×式の二項対立を超え、成長から成熟の21世紀に相応しい「造るから直す・守る・創る」公共事業の在り方を問う宣言でした。が、その意識改革は遅々として進みません。
堆砂の浚渫・護岸の補修・森林の整備。これらを常日頃から怠らぬことこそ、地元雇用を生み出す地域密着型公共事業の治水・治山の原点であるにも拘らず。因みに浚渫は、重機を用いて1㎡辺り1万円強で実施可能です。
(後略)