大阪市西成区にある一棟の古ぼけた建物。築40年を超えたそのオンボロ・マンションには、生活保護の受給者ばかりが住んでいる。しかも、その多くが高齢者だ。彼らをそこに集めたのは、行政ではない。暴力団とのつながりが指摘される業者である。
男性入居者の一人がこう話す。
「今年の正月のことだった。どこで聞きつけたのか知らないが、ある日ワシが寝ていた木賃宿に、一見してヤクザ者とわかる男が二人来て、『オッチャン、こんなところに寝てないで、もっとええところに連れてったる。そこで暮らせ』と。それで、男二人に連れていかれたのが、5階建てのそのマンションでした。3階の一室に押し込められたんだが、そこにはワシと同じように連れてこられたと思しき男が何人もいた。ヤクザ男に、『今日からここで暮らせ。こんないい部屋でしかも三食付きだ。さっきの汚い宿よりよっぽどましだろ』と言われ、その日からここに住むようになったのです」
マンションの家賃は、食事代、共益費を含めて12万円。男性はそれを、支給されている生活保護費14万円の中から支払っているという。
生活保護費が振り込まれる日になると、入居者は自身の口座がある銀行へと向かう。ヤクザ者風の男が1人つきそっている。入居者は銀行で生活保護費を引き出すと、家賃を男に直接手渡す。手元に残るのは2〜3万円。先の男性が力なく言う。
「それでも、このほうが木賃宿を渡り歩くよりも楽でいいとも思う。飯も毎日食えるしね。他の住人も同じ思いではないかな」
生活保護受給者を囲い込み、支給される生活保護費の大半を搾り取る……。典型的な“貧困ビジネス”だが、このマンションを管理している業者は、さらに悪知恵を働かせる。
再び先の男性入居者。
「ワシらは齢だから、病院にはよく行くんだ。生活保護受給者は、医療費がかからないから気安く行けるというのもあるが、そうでない人も月に二度ほど強制的に行かされる。男たちがついてきて、『今日は血圧が高いから降圧剤を出してくれと言え』とか『今日は糖尿の薬を出してくれと言え』といちいち指図をする。で、ワシらは大量の薬をもらうんだが、その薬はそっくり男たちに召し上げられてしまう」
こうして入居者たちが強制的に行かされる病院は、常に同じところだという。
病院経営に精通している、ある公認会計士がこう説明する。
「もっぱら生活保護者を診療しているこの手の病院は“貧困ホスピタル”と呼ばれています。なかには24時間営業のところもある。ご存じのように生活保護受給者は医療費がかからない。すべて行政が負担するわけで、絶対に取りっぱぐれがない。これを金融面からいうと、その病院の診療報酬には大変な担保価値がある。そこで最近は、病院乗っ取りグループが、乗っ取り後の貧困ホスピタル化を条件に、銀行から融資を引き出す例が増えています」
ここには大きく分けて二つの問題がある。
ひとつは、病院乗っ取りグループの背後に半社会的勢力が介在していること。つまり銀行が反社に融資をしているケースがあること。
もうひとつは、生活保護受給者に処方された大量の薬品が転売されている実態があることだ。
前者の具体的としては、大阪市西淀川区にあるNという総合病院があげられる。このN病院に対して目下、ある地銀の大阪支店支店長と反社がスクラム組んだ乗っ取りが仕掛けられている。
(後略)