記事(一部抜粋):2014年5月号掲載

社会・文化

調査捕鯨「敗訴」直前に開かれた鯨肉試食会

【ズームイン】

 日本が南極海でおこなっていた調査捕鯨について、ICJ(国際司法裁判所)が3月31日、中止を命じる判決を下したことが、マスコミで大きく取り上げられた。
 そんな折も折、ICJ判決の直前の3月28日、東京都内で一風変わった試食会が開かれたことは、あまり知られていない。
 試食会の会場となったのは、東京・渋谷区にある東京ジャーミイ。東京モスク、代々木モスクとも呼ばれる日本最大級の回教寺院だ。そこで開かれたのが「ハラル認証クジラ試食会」。主催したはの調査捕鯨を手がける共同船舶(東京中央区)という業者である。
《このたび弊社の保有する調査捕鯨船「日新丸」において生産されるクジラ肉について、ムスリムの方々が安心して食べることのできるようハラル認証を取得いたしました。つきましては、在日ムスリムの方々にクジラ料理をご紹介するために下記の通りクジラ肉の試食会を開催しますのでご案内申し上げます》(招待状)
 ハラルとは、「イスラム法が認定する適正な方法で処理・加工・保管・運搬された食品」のことで、ハラル認証とは、そのお墨付きを得ることをいう。
 イスラム社会で豚肉を食べるのが禁じられていることは広く知られているが、それ以外の肉であっても屠畜方法が正規の手順に従ったものでなければならないという。共同船舶が保有する調査捕鯨船・日新丸は、捕獲したクジラを浜の上に引き上げることなく甲板の上で加工、パッキングまで一貫して作業することが評価され、昨年11月、一般社団法人国際イスラム交流支援協会からハラル認証を取得したという。
 認証を受け、晴れて開催されたこの試食会。日新丸が北西太平洋で捕獲したイワシクジラの刺身やカレー、ステーキがふるまわれたという。
 「出された料理は多くはなかったが、会そのものは盛況だった」(参加者の一人)というから、主催者側の思惑通り、試食会は成功裏に終わったようだが、この試食会に、苦虫をかみつぶす思いなのが政府関係者だ。
 「困ったものです。鯨肉がハラル認証を取得したという事実だけでも、軋轢の元なのに、そこへもってきて試食会だなんて。まさにKY(空気が読めない)です」(外務省アジア大洋州局関係者)
 水産庁資源管理部の関係者もこうぼやく。
 「4月5日にオーストラリアのアボット首相が来日した際だって、捕鯨問題には極力触れないよう配慮したのに……。その1週間前にムスリム向けのクジラの試食会とは、肩の力が抜けていく思いです」
(後略)

 

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