記事(一部抜粋):2014年5月号掲載

経 済

増税したのに超緊縮財政、景気は財務省のさじ加減次第

【証券マン・オフレコ座談会】

(前略)
A 駆け込み需要はしょせん先食い需要だから、4月以降の反動は大きい。要は次の矢を打たなくてはならないんだが、安倍内閣にも、それを支える官僚組織にも「その気」があるように見えない。
B それでも、アベノミクスの第3の矢である成長戦略の柱、国家戦略特区が発表された。
A その国家戦略特区自体、成長戦略になるかどうか疑問だよ。
C 国家戦略特区も環太平洋パートナーシップ(TPP)も根っこにあるのは、経済活動の障壁になっている「規制」を取り払うという考え方。
B 有識者による国家戦略特区ワーキンググループの「集中ヒアリング」による議論によって、安倍政権の方針が決まっているようだけど、その中心人物は小泉政権で弱肉強食政策を一気に促進した竹中平蔵氏といわれている。
C そう。いままでの国のしくみやあり方を変えるのに、国会で国民に見える形で議論するのではなく、何でもかんでも有識者によるワーキンググループで決定する。このやり方はよくないと思う。
TPPの下地づくり
A 規制のなかには日本の長い歴史のなかで国民やその地域の住民を守るためにつくられたものもある。Cさんのいうように、国家戦略特区はTPPのための下地づくりの側面が強い気がする。
B TPPの下地づくり?
A そう。TPPは条約だから法律上は憲法の下。だから、TPPが批准されたとしても、法律がなければ執行されない。
C だから韓国は米韓FTAを批准したあと、あわてて60もの法律を改正している。
B 先に法律を改正すればいいじゃない。
A 国会で法律改正の議論をすれば、それによって不利益を被る国民が騒ぎ出す。
B だから政府が先行して条約を批准したと?
A そういうことになるね。韓国もその段階になって農業団体が騒ぎ出したんだけど、産業界が「俺たちも血を流すから」といってその動きを封じこめた。
B それじゃ、日本のTPPは?
C 自動車の関税を見ても日本は他国と比べるとすでに低いので、産業界のメリットはあまり多くないと思う。だから農業団体の一人負け。ただ、商社やスーパーは農産物の輸入で潤う可能性が高い。
A 問題は、食糧とエネルギーが国家自立のための戦略物資だということ。先の大戦もエネルギーを石油の輸入に頼っていた矢先、米国によってそれを止められたことが開戦のきっかけになった。
C ロシアが以前、欧州に対して天然ガスを停止したことを米国はいまになって非難しているけど、米国だって、エネルギーだけでなく食糧も、自国民の消費量を確保するとの理由で輸出をストップしたことがある。
B だから政府は農業の株式会社化を促進しているんでは?
A Bさんはもう少し食の勉強をしたほうがいい。僕の家のまわりにも「生産緑地地区」がたくさんあって、毎日お年寄りがそこでつくった野菜を産直(JA)に出荷している。で、産直がすぐ近くにあるので覗いてみると、知り合いのお年寄りがつくった野菜が並べられている。そのお年寄りは農薬を一切使わないんだよ。
B それじゃ、虫だらけ?
A そう、穴だらけで、虫がついていたりする。だけど変な農薬を使っていないと知っているから安心なんだ。安いだけじゃなくて生産者の名前が書いてあるから。
B いくら無農薬でも虫がついているんじゃなあ。
C 昔、中国の食堂で出されたコップの水のなかにボウフラが泳いでいて、クレームをつけたら、「ボウフラが生きられる安全な水だ」と説明されたことがあるよ。
B 意味不明……。
A 中国の話は置いといて、最近の野菜の種はほとんどが輸入もので、農薬とセットになっているものが多い。その農薬を使うと虫がまったくつかないらしい。
B それって、遺伝子操作じゃないの?
A かもね?
B かもねじゃないでしょ。Aさんこそ、食の勉強をしてよ。
A 話を戻すけど、僕がいいたいのは、TPPとはこのような日本の伝統的な種や食文化を壊し、土地を接収して、外資や大企業が農業に参入しやすい状況をつくるためのものだということ。
B そのための法的基盤づくりのために、国家戦略特区が利用されるということ?
A そんな気がする。
B さっき話が途中になったけど、政府は消費税増税後の落ち込みをカバーするため、次の手を打たないんだろうか?
C そもそも、国の財政支出の規模からみて、その気があるようには思えない。
B 97年の消費税増税後の落ち込みという学習効果があるのだから、政府も財務省も何か考えているんじゃないの?
C ところが、消費税を上げることに成功した途端、「知らぬ顔の半兵衛」をきめこんで、超緊縮財政となった。
B 超緊縮財政?
C そう。これは植草一秀の受け売りだけど、財政収支が経済に与える影響をみる指標の一つに、「歳出—税収前年差」がある。
B その年の歳出から税収を引いた数字を、前年の数字と比較するんだね。
C 2013年はその差が11兆7000億円のプラスと、近年ではかなり多い数字となった。ところが、今年度は税収が増加する見込みなのに、歳出が前年より少ないものだから、15兆6000億円のマイナスと、過去にも例がないほどの緊縮財政となった。
(後略)

 

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