記事(一部抜粋):2014年3月号掲載

連 載

【新ニッポン論】田中康夫

「リニア新幹線」

 時速500キロで「東京都ターミナル駅」と「名古屋市ターミナル駅」を最速40分、とJR東海が喧伝する2027年開業予定「リニア中央新幹線」は、50年間無事故の東海道新幹線以上に“夢の超特急”たり得るのかな?
 大手町の経団連会館から名古屋駅前のミッドランドスクエアに入居のトヨタ自動車に出張する場合の両者の所要時間を東京駅—名古屋駅で比較してみましょう。
 のぞみの場合は101分。ではリニアの場合は如何に。品川での乗り換えには20分を見るべき、と唱える「時刻表ヲタク」も居ますが、JR東海の発表資料に忠実に基づき計算すると概ね76分。その差25分です。
 最も運行頻度の高い山手線で東京駅—品川駅が11分。品川駅直下の地下約40mに位置する東京都ターミナルへ「15分程度」。リニア乗車時間が40分。地下約30mに位置する名古屋市ターミナルから地上へは「10分以内」。即ち76分です。
 一方で山田佳臣JR東海社長は昨年12月、時速300キロの山陽新幹線と異なり現在は時速270キロの東海道新幹線の時間短縮を図るべく、最高速度引き上げを国交省に申請すると会見。乗り換え時間を含めてリニアと僅か10分も違わなくなるぞ、とネット上で「鉄ちゃん」が甲論乙駁な所以です。全区間の86%が地下で、車窓から富士山も浜名湖も見えず、運賃も割高なリニアを、訪日観光客のみならず日本のビジネス客も好んで選択するのか、と懸念表明の「旅行ヲタク」も居ます。
 小学校の授業で習った糸魚川—静岡構造線のフォッサマグナが横切る南アルプスの山頂から1600mも下を通過するリニアは、地下水と活断層の水圧と土圧と高熱に「万が一」の場合も耐え得るのか。更には遠隔操作の無人運転車両から停電時、乗客を如何に地上まで誘導するのか。科学音痴な僕の“素朴な疑問”です。
 独立行政法人「産業技術総合研究所」の阿部修治氏は昨年、これが「筋のよいエコな技術」かと「科学」11月号に“プロの疑問”を寄稿しました。時速500キロ走行リニアの消費電力は現行新幹線の約4.5倍。走行距離・座席当たりの消費エネルギーも約3.5倍との計算結果を根拠に。
(後略)

 

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