記事(一部抜粋):2014年2月号掲載

連 載

【政治の読み方】武田文彦

今上天皇に「抵抗のススメ」

(前略)
《天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない》
 今上天皇は、日本国憲法第4条をわざわざ全文引用して、この条項を遵守すると仰っています。
 ところが改正草案はこの第4条を、次のように微妙に変えています。
 《天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない》
 日本国憲法にあった「のみ」という言葉を削除しているのです。
 のみという言葉がつかなければ、国事行為以外のこと、例えば靖国神社への参拝、海外に自衛隊を派兵する際の歓送迎会へのご臨席、といったようなことも、法律で強制しかねません。「のみ」の削除には、天皇を政治的に自分たちに都合よく利用しようという意図が隠されているとみるべきです。
 天皇もこういう意図を察知して、わざわざ日本国憲法の第4条を全文引用したのではないでしょうか。
 自民党は天皇を象徴天皇&元首とする改正草案を発表することで、あたかも天皇に対し尊崇の念を表明したように見えますが、それは表面上、形式上のことで、本当の狙いは、自分たちの権威と統治の象徴にすることです。
(中略)
 ほかにも、例えばこんなご発言をされています。
 「日本では、どうしても記憶しなければならないことが4つはあると思います。終戦記念日、広島の原爆の日、長崎の原爆の日、そして6月23日の沖縄の戦いの終結の日です」(皇太子時代の1981年8月7日、美智子さまとの記者会見で)
 「憲法は国の最高法規ですので、国民とともに憲法を守ることに努めていきたいと思っています。終戦の翌年に学習院初等科を卒業した私にとって、その年に憲法が公布されましたことから、私にとって憲法として意識されているものは日本国憲法ということになります」(1989年8月4日、即位後初めての記者会見で)
 「やはり、強制になるということではないことが望ましい」(2004年10月28日、東京都教育委員だった故米長邦雄氏が「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事」と話したことに対して)
 もちろん、こうした発言は記者に問われてのもので、天皇みずから問われもしないのに「朕が、朕が」と発言したのではありません。政治向きの話を問われたから答えたわけですが、こうしたご発言からは、今上天皇が、戦争を忌避し、平和を尊び、国旗も国歌も強制であってはならないという、戦後民主主義的教育の下で健全に育った一般の人々と極めて近い価値観をお持ちであることが分かります。
 今上天皇は「朕を元首にしろ」なんて一言も仰っていないし、国防軍を保持すべきとも仰っていないのです。国歌斉唱や国旗掲揚を子供たちに強制すべきではないと仰っているのです。
 改正草案の第3条を、天皇が見たら「なぜ、こんな条文を付け加えたのだ。私はそんなこと望んでいない。憲法に書いたら強制になってしまうだろう」とお怒りを示されるはずです。
 いや、安倍総理がライフワークだと公言してはばからない日本国憲法の改正、その草案には天皇ご自身に関する直接の記載があるのですから、当然ご覧になっているはずです。今上天皇は「安倍、よせ」と心中叫んでおられるのではないでしょうか。
 前出の天皇のご発言は改正草案ができる前のものなので、天皇が憲法についてどんな考えを持っておられるか、自民党は承知していたはずです。にもかかわらず、天皇のお気持ちやお考えに反する草案を発表したのです。
(後略)

 

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