B 2013年1月29日発行の『日露エネルギー同盟』という本が事情通の間で注目されているようだね。
C さらっと読んだけど、要するに、東アジア地域で台頭著しい中国を牽制するためには、米国との同盟関係を維持する一方で、中国とライバル関係にあるロシア と互恵関係を結ぶことが重要だといったニュアンスのことが書いてあった。
B その互恵関係というのが、日本がサハリンの天然ガスを買うということ?
C そう。買うだけでなく、ロシアから日本へ天然ガスのパイプラインを敷設することを提唱している。
A 安倍晋三首相が2月7日に開催されるソチオリンピックの開会式に急遽、出席すると発表したものだから、サハリンガスのパイプライン・プロジェクトが現実味を増したといわれている。
B たしかに関連銘柄が噂され始めたけど、なぜ開会式に出席するくらいで騒ぐの?
C ロシアが「同性愛宣伝禁止法」を制定したことを受け、欧米各国の首脳が開会式への出席を取りやめた。そのようななかでの安倍首相の出席は、プーチンの歓心を買うだけでなく「何らかのサプライズがあるのでは」という観測が持ち上がっている。
B それがサハリンガスだと?
A そう。ただしモノには順序というのがあって、昨年4月の日露首脳会談の共同宣言に「戦後67年たって、いまだに平和条約が締結されていないのは異常なこと」と明記されたのがポイントだ。
B 日ロ平和条約が締結されないことには、パイプラインもなにも前に進まないと。
A そういうこと。おそらく今回は平和条約が締結される可能性が高いと思う。
C そうなると、北方領土4島のうちの2島が返還される可能性が高いね。
B なぜ2島なの?
C 56年の日ソ国交回復の共同宣言の調印では「平和条約締結後に歯舞・色丹を返還する」と記載されている。調印すれば2島の返還は担保されているということ。3島になるか4島になるかは努力次第だ。
B なるほど、そこでサハリンガスのパイプライン敷設のビッグプロジェクトが現実味を増すわけか。
A その可能性が高くなるだろうね。『日露エネルギー同盟』を書いた著者の藤和彦は、元通産省のキャリアで内閣情報調査室の参事官を務めた人物だ。
B 根拠のない話は書かないと?
A そう考えたほうがいい。
B 問題は、自国の覇権維持のためにエネルギーの需給をコントロールする米国がそれを許すかということ。エネルギーの独自外交をした田中角栄や、ロシアのエネルギー権益に首を突っ込もうとした鈴木宗男も米国の横やりで失脚させられたといわれているし。
A おそらく今回に限っていうと、その可能性は低い。というのも、著者の藤の現在の肩書は「世界平和研究所」の主任研究員。本はその肩書で書いたもの。
C 平和研といえば、大勲位の中曽根康弘元首相が大金を投じて創設したといわれているシンクタンク。中曽根はバリバリの親米派だけに、藤が書いているように中国包囲網の一環なのかもしれない。
A たぶんね。それにこの研究所のメンバーが興味深い。副会長には新日鉄住金の名誉会長の三村明夫の名前がある。
B ビッグプロジェクトのパイプラインの敷設となれば、新日鉄住金が本命というのはわかるけど。
C パイプラインの敷設に欠かせないシームレス・パイプのトップメーカーだった住金と合併したのは、ダテではなかったということだ。
A ほかにも元外務官僚の大河原良雄や野村総研の中川幸次らの大物理事に混ざって「日本版NSC」の初代事務局長となった谷内正太郎が副理事長になっている。それに理事長の佐藤謙はたしか財務官僚じゃないかな。
B 官僚出身ばかりだね。三村明夫は日本商工会議所の会頭でもあるけど、「脱原発」を前面に東京都知事選への立候補を表明した元首相の細川護煕に対して「『脱原発』は単なる願望で現実的な政策ではない」と批判している。これって矛盾しない? 所属するシンクタンクはエネルギーコストの安い天然ガスプロジェクトを提唱し、一方では脱原発を批判するなんて。
(後略)