記事(一部抜粋):2014年1月号掲載

経 済

反社取引解消のケーススタディ

八千代銀行と住吉会系石井会の事例

 みずほ銀行が暴力団組員向け融資を放置していた問題を契機に、金融機関が反社会的勢力との関係解消に躍起となっている。もっとも反社との関係解消の動きはいまに始まったことではなく、全国の自治体で暴力団排除条例の制定が相次いだ2000年代中盤から、金融界は独自に暴力団排除条項を作成するなどして、証券口座や銀行口座の開設に制限を加えてきた。
 とはいえ、すでに取引のある相手との関係を断ち切るのは、今回のみずほ事件や、金融庁検査の結果(多数の反社取引が確認された)からも分かるように、簡単なことではない。あるメガバンク関係者はこう愚痴をこぼす。
 「1980〜90年代、反社への融資は特に問題とされなかった。指定暴力団の関連企業は高金利をつけても完済能力が充分にあったからだ。法規制で反社との取引は禁止されたが、規制するなら、当局は行政指導で反社の線引きと処理方法、そして期限を明確に示してほしかった」
 金融(監督)庁が具体的な処方箋を示さないなか、金融機関はどのように反社との取引解消に骨を折ってきたのか。ひとつ例をあげてみよう。
 東京・渋谷を拠点とする暴力団「石井会」。同会は指定暴力団「住吉会」の系列組織で、初代会長の石井福造(故人)は、住吉会特別常任相談役を務めた大物だ。
 その石井が代表を務めていた「福伸産業」に12億4000万円を融資したのが、八千代信用金庫(現・八千代銀行、2014年10月に東京都民銀行と経営統合)渋谷支店。1986年9月のことである。担保は渋谷区円山町のラブホテル「L」の土地建物と世田谷区にある石井の自宅。
 「石井福造は本田靖春の『疵』というノンフィクション作品にも登場する有名なヤクザです。映画にもなったので知っている人も多いでしょう。『疵』は安藤昇が率いた安藤組の花形敬を主人公とした作品ですが、その花形と組織内でライバル関係にあったのが石井です。石井は安藤組解散後、住吉会の系列に加わり、11年5月に亡くなるまで現役でした。石井会は渋谷のセンター街などを拠点とし、事業の中心がラブホテルのL。八千代は当初、福伸産業に年7.3%の金利で貸し付けていた。バブル期から平成になっても、この優良顧客を手放しませんでした」
 こう語るのは八千代銀行の元関係者である。
 それでは融資の始まりから「完結」までを、不動産謄本で振り返ってみよう。
(後略)

 

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