記事(一部抜粋):2014年1月号掲載

経 済

異次元緩和の行き着く先

【情報源】

 2014年の関心事は、何といっても安倍政権の目玉政策「アベノミクス」の帰趨に尽きる。
 たしかに足元の景況感は改善され、上場企業の経常利益はリーマン・ショック直前の9割の水準まで回復、実質GDPも4四半期連続でプラスを記録している。
 しかし一方で、二極化、格差の拡大は加速し続けている。地方経済の疲弊はさらに進み、円安デメリットで中小企業の業績悪化には歯止めがかからず、多くの低中所得者は実質賃金の減少と日用品、エネルギーの値上げに悲鳴を上げている。それもそのはず、アベノミクスは決して全体の底上げを目指す政策ではないのだ。ましてや、わが国は少子高齢化や国内市場の縮小、産業の空洞化といった構造的なジレンマに見舞われている。消費増税後の景気の腰折れも避けられない。今年はスタグフレーション(景気後退と物価上昇)に加え、物価上昇と賃金下落が低中所得者の貧困に拍車をかける「スクリューフレーション」の年になるかもしれない。
 アベノミクスの最大の難題は「異次元緩和の出口戦略」である。日本銀行のシナリオによると、2015年までに2%のインフレ目標が達成されれば量的緩和を縮小、利上げに転じることになっている。いまのところ日銀は、「まだその時期ではない」と出口戦略論議を頑なに封印しているが、それも当然だろう。なにせ、マネタリーベース(資金供給量)は2年間で270兆円という途方もない規模に達し、日銀が国債の8割近くも購入、人為的に長期金利を押さえ込むという前代未聞の政策に踏み込んでしまったのだ。日銀による膨大な国債の事実上の直接買い入れが市場機能を喪失させたことで、日銀としてもその支えを外すことができなくなっている。今後、追加緩和の終了宣言はできても国債の購入は止められず、結局は「際限なく国債を買い続けるしかなくなる」(金融関係者)。日銀が国債の購入額を減らせば国債価格の下落は必至。中央銀行が財政赤字を穴埋めする「マネタイゼーション」と判断されれば長期金利は瞬く間に上昇、わが国の金融システムは大混乱を来す。公共事業の大盤振る舞いで財政赤字が膨れ上がっているだけになおさらである。
 日銀は、緩和終了の条件として「2%のインフレの安定的な持続」を掲げている。実はこれ、「需給ギャップゼロのなかでの物価上昇率2%」(財務省幹部)だという。ところが、過去四半世紀で需給ギャップゼロの下での持続的な2%の物価上昇の前例はない。そうであれば、出口を見出せないまま15年以降も異次元緩和が継続される可能性もある。その場合、東京五輪が開催される2020年には日銀の資産がなんと名目GDPを超えるという異常事態に陥り、それこそ、“異次元”の世界に突入してしまう。
(後略)

 

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