(前略)
民主党の海江田万里代表は「官僚による、官僚のための、官僚の情報隠しの法案だ」と批判した。ほかにも「官僚の裁量で秘密が増殖する」という声が多い。
法律は文章で表現される以上「解釈」の余地が残るは当然である。しかし特定秘密保護法の場合、裁量の余地が多すぎるとは思えない。元の政府案には、特定秘密の範囲を定義する条項の中に《その他の》という解釈の余地を広げる懸念のある表現があったが、それは修正によって削られている。
また、チェック機能として、第三者による情報保全諮問会議(基準のみ)、行政内における保全監視委員会、独立公文書管理監、特定秘密の国会への報告——などが盛り込まれたが、こうした行政内相互監視、国会による多重チェックは、ほかではなかなか見られないものだ。
官僚が裁量的にふるまうのは、自分が最終決定者であるという自己満足や、見返りの利益を期待する場合である。しかし、今回のように他者、特に政治家の「多重チェック」があると、官僚は基本的に小心なので、そのチェックをかいくぐってまで裁量をふるおうとするインセンティブは働かない。しかも、秘密漏洩の刑事罰は10年だ。
さらに重要なことがマスコミでは語られていない。それは特定秘密保護法によって新たに秘密が増えるわけではないということだ。もともと国家公務員法には守秘義務があり、その守秘義務の一部について詳細なルールを規定したにすぎない。
特定秘密保護法でいう特定秘密は、公務員法上の守秘範囲のなかに含まれる「部分集合」である。だから「特定」といっている。
公務員法上の守秘範囲以外のものは、当然のことながら公開される。その守秘範囲は、特定秘密保護法ができたからといって変わるわけではない。だから、マスコミがいう「国民の知る権利が侵害される」という主張は短絡的といわざるを得ない。
むしろ、現状の守秘範囲の扱いが公文書管理ルールのみでかなり杜撰なのに対し、今回の法律で決められた特定秘密は厳格なルールなので、現状の公文書管理ルールよりもマシということができる。
マスコミが特定秘密保護法に反対する理由は、新聞協会によれば、(1)政府・行政機関にとって不都合な情報を恣意的に特定秘密に指定できる、(2)厳罰化で、公務員らの情報公開に対する姿勢を過度に萎縮させる可能性がある、(3)「不当に」の範囲が不明確で、政府や行政機関の運用次第で、憲法が保障する取材・報道の自由が制約されかねない——の3点だ。
こうした意見が出るのは、特定秘密保護法が、情報公開法や公務員法の一部法であることを理解していないからだろう。
(1)については、上述したように特定秘密は情報公開法の公開除外や公務員の守秘義務範囲内の部分集合であり、情報公開法の公開部分や公務員の守秘義務範囲外は従来と同じ扱いだから、国民の知る権利は侵害されない。
(2)については、厳罰化されているのが特定秘密だけで、それ以外の一般の秘密の部分は変わらない。秘密以外は情報公開法の公開対象であることも変わりはないので、何ら支障がない。
(3)についても、現状より悪くなるわけではない。国家公務員法111条では《……に掲げる行為を企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし又はそのほう助をした者は、それぞれ各本条の刑に処する》とされている。特定秘密を含んでいようがいまいが秘密を漏洩した公務員、教唆をした非公務員が罰せられることに変わりはない。
(後略)